早期肺がんの治療は日帰りで―重粒子線の1回照射による早期肺がんの治療効果を科学的に証明―
2017/05/10
国立研究開発法人
量子科学技術研究開発機構
詳細は、リンクを参照して下さい。
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発表のポイント
・早期肺がん1)を対象に、重粒子線治療の
1回照射法を218症例に行い、
重篤な副作用が無く、治療に効果的な
線量を明らかにした。
・最適な線量の1回照射法で治療した
患者さんが、治療の2年後までに
生存している割合が93.7%と非常に良い
結果となった。
・日本人に多く、肺がん治療後に突然肺炎
を発症して呼吸不全になる危険性が高い、
間質性肺炎2)を合併した早期肺がんに
1回照射法を適用し、X線治療よりも
危険性を大幅に下げてがんを治療できる
ことがわかった。
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国立研究開発法人量子科学技術研究
開発機構
(以下「量研」という)
放射線医学総合研究所
(以下「放医研」という)
臨床研究クラスタ 重粒子線治療研究部
頭頸部・胸部腫瘍臨床研究チームの
山本直敬 チームリーダーは、
早期肺がんに対する重粒子線治療の
1回照射法が有効かつ安全であることを
明らかにしました。
また、重粒子線治療が間質性肺炎を
合併した早期肺がん治療に有用であること
がわかりました。
重粒子線治療では、正常組織に当たる
線量を低くして、がんの部分に集中して
照射できるので、がん細胞を殺すために
必要な線量を一度に照射することにより、
治療期間を短期化することが可能です。
短期化は、入院が不要になるなど
患者さんにとっての利便性を向上させる
だけでなく、多数の患者さんを治療する
ことでコストが低減され、
治療費の低価格化につながる効果も
期待できます。
しかし、通常、放射線治療は、
正常組織への線量を低減しながら
がんの部分に十分な線量を照射するため、
1回あたりの線量を抑えて、
複数回照射します。
放医研でも1994年の治療開始時は、
早期肺がんでは18回(6週間)の照射を
行っていましたが、治療の短期化を
目指して、重症の副作用が発生しない
安全性と治療の有効性を確保しながら、
9回(3週間)、4回(1週間)と
照射回数と治療期間を減らす臨床試験を
行いました。
これらの臨床試験の実績を基に
放医研では、最短となる1回(1日)照射
での治療を実現するため、
2003年に早期肺がんを対象に臨床試験を
開始しました。
1回照射法に最適な線量を検討するため、
症例ごとに少しずつ線量を増加する手法を
取りました。
2012年に臨床試験を終了し、
全218症例について解析した結果、
重篤な副作用はないこと、
治療に適した線量は50グレイであることが
わかりました。
50グレイで治療した40例については、
治療の2年後までに重粒子線治療を行った
場所に病気が再発しない割合
(2年局所制御率)は96.7%、
治療の2年後までに患者さんが
生存している割合(2年生存率)は
93.7%と、非常に良い治療成績が
得られました。
この結果を受け、がん以外の肺の部分に
当たる線量を極力抑えることが有効と
考えられる、間質性肺炎を合併した
早期肺がんに重粒子線治療の1回照射法を
実施しました。
日本でも多い間質性肺炎を合併した
肺がんの治療は外科手術が
主体となりますが、患者さんの状態などで
手術ができない場合にはX線治療が
行われます。
通常、X線治療は複数回照射するため、
がん以外の間質性肺炎の部分の線量も
高くなってしまい、X線では治療後の
急性増悪(突然肺炎が発症した呼吸不全
になる)の危険性が術後(5-7%)と比べて
3倍ほど高く治療が困難でした。
そこで、間質性肺炎を合併した
早期肺がんを、1回照射法を含む
重粒子線治療で40例治療を行ったところ、
急性増悪を発症したのは2例(5%)で、
2年局所制御率は65.4%と良好な結果が
得られました。
重粒子線の1回照射による
早期肺がん治療の成果は肺がん治療の分野
でインパクトの大きい論文が数多く
発表されている世界肺がん学会誌
「Journal of Thoracic Oncology」
2017年4月号に掲載されました。
また、間質性肺炎を合併した
肺がんの治療研究については、
5月12日の世界粒子線会議
(PTCOG、パシフィコ横浜)にて
発表する予定です。
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素晴らしい研究ですね。
問題は国内の重粒子線治療施設が
あまりに少ないということです。
お金の問題もありますが、
>早期肺がんの重粒子線治療は、
>現在先進医療3)の枠組みで行われており、
>患者さんの経済的な負担が大きく、
>保険が適用されることが望まれています
>が、それには多施設間で統一した
>治療方針に基づいて重粒子線治療を
>行ったうえで、そこで得られるデータ
>からより信頼度の高い有効性を示す
>必要があります。
>そのため、現在も日本放射線腫瘍学会の
>指導の下、国内の重粒子線治療施設
>とともに症例の全例登録を推進して
>データを収集、解析し、
>将来、この病気に対する重粒子線治療の
>保険適用が実現するよう努力して
>いきます。
大いに期待したい。
と思いますが、
医療費の増大は保険財政の破綻に
つながる心配があります。
医薬品もどんどん高額になるし、
どう対策するか?
今のうちに真摯な議論が必須です。
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2017.03.29
日経バイオテクONLINE
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