腸内細菌の脂肪酸代謝を解明 -腸内細菌と食事のバランスによる生活習慣病予防への新たな視点-
2013年10月15日 京都大学
詳細は、リンクを参照して下さい。
---------------------------------------
小川順 農学研究科教授、岸野重信
同助教、島 純 同特定教授
(微生物科学寄附研究部門)、
植田和光 物質-細胞統合システム拠点
(iCeMS=アイセムス)教授らの
研究グループは、清水昌 京都学園大学
教授、有田誠 東京大学薬学系研究科
准教授、新井洋由 同教授、國澤純
医薬基盤研究所プロジェクトリーダー、
清野宏 東京大学医科学研究所客員教授ら
とともに、腸内細菌における脂肪酸代謝
の詳細を解明し、その代謝で特徴的に
生じる脂肪酸が宿主の脂肪酸組成に影響を
与えていることを世界で初めて明らかに
しました。
この研究成果は、米国科学アカデミー
紀要(Proceedings of the National
Academy of Sciences of
the United States of America)の
電子版(米国東海岸標準時2013年10月14日)
に掲載されました。
-----
背景
肥満にともなう脂質代謝異常症や
メタボリックシンドロームの増加に
ともない、脂質の分解・吸収の主な場
となる腸管内における脂質代謝に関心が
集まっています。
また、腸内細菌がヒトの健康に与える
影響への関心も高まってきており、
腸内細菌における脂質代謝に関する情報
の収集が急務となっています。
本研究グループは、腸内細菌の代表格
であり食品産業においても広く活用されて
いる乳酸菌を対象に、未開拓であった
腸内細菌の脂質代謝を酵素レベル・
遺伝子レベルで明らかにし、その代謝が
宿主に与える影響を解析しました。
-----
研究手法・成果
漬け物、キムチ、ザワークラウトなどの
植物発酵食品中にもよく見られる乳酸菌
Lactobacillus plantarumを用い、食用油中
に広く含まれる脂肪酸(リノール酸)が
どのように代謝変換されるかを解析した
ところ、脂肪酸生合成に見られる不飽和化
とは逆の飽和化代謝が進むことを見い出し
ました。
さらに、この飽和化代謝に関わる酵素
として複数のタンパク質を同定すると
ともに、それぞれの酵素反応生成物の
化学構造を明らかにしました。
これらの結果に基づき、乳酸菌が
リノール酸を多段階の反応を経て
オレイン酸へと飽和化する代謝経路の
全容を解明しました。
また、この代謝に関わる複数の酵素の
遺伝子を特定し、その相同遺伝子の
腸内細菌における分布を調べたところ、
すべての酵素遺伝子を持つものや、部分的
に持つものなど、さまざまな菌株が存在
していることが判明しました。
腸管内では、相同遺伝子を有する
腸内細菌の協調的な作用により、
リノール酸に代表される食品由来の
不飽和脂肪酸が飽和化されると
考えられました。
この不飽和脂肪酸の飽和化代謝
においては、水酸化脂肪酸、
オキソ脂肪酸、共役脂肪酸、部分飽和脂肪酸
など、通常の脂肪酸代謝では生成しない
特殊な脂肪酸が中間体として生成しました
(図)。
これらの飽和化代謝に特徴的な脂肪酸の
組織分布を、腸内細菌を保持するマウスと
腸内細菌を保持しない無菌マウスにおいて
比較しました。
その結果、初期代謝産物である
水酸化脂肪酸が、腸内細菌を保持する
マウスにおいて特徴的に多く存在する
ことを見い出しました。
この結果により、腸内細菌の脂肪酸代謝
で特徴的に生じる中間体が、宿主の
脂肪酸組成に影響を与えていることを
明らかにしました。
-----
波及効果
腸内細菌による脂肪酸の飽和化代謝の
中間体には、腸管の蠕動運動を活発化する
ひまし油成分に構造が類似する
水酸化脂肪酸、トマトの脂質代謝異常改善
成分に構造が類似するオキソ脂肪酸、
乳製品に含まれる抗肥満活性成分に
構造が類似する共役脂肪酸、
発がん抑制作用を有する部分飽和脂肪酸
など、さまざまな生理機能が期待される
脂肪酸が存在します。
これらの脂肪酸の機能性脂質としての
開発が期待されるとともに、機能性脂肪酸
を腸管内で生成し得る乳酸菌の
プロバイオティクスとしての開発も
期待されます。
また、今回見いだされた腸内細菌の
脂質代謝は、反芻動物由来の食品
(牛乳、牛肉など)に含まれ健康に良い
とされる共役脂肪酸、
悪いとされるトランス脂肪酸の生成にも
関わっています。
したがって、乳製品中のトランス脂肪酸
削減など、脂肪酸組成を制御する技術の
開発につながると考えられます。
さらに、この代謝に見いだされた
脂肪酸変換反応は、脂肪酸構造を有する
種々の化成品原料の生産にも活用でき、
物質生産触媒としての化学工業への応用
も期待されます(図)。
---------------------------------------
腸内細菌の働きについては常に関心を
もって見ています。
腸内細菌の働きは調べれば調べるほど
有用なものですね。
>この代謝に見いだされた脂肪酸変換反応
>は、脂肪酸構造を有する種々の
>化成品原料の生産にも活用でき、
>物質生産触媒としての化学工業への応用
>も期待されます
とのことです。
大いに期待したい。
| 固定リンク
「科学関連ニュース」カテゴリの記事
- 世界初、100:1の減速比でも逆駆動可能なギヤを開発―ロボットの関節やEVの変速機などへの展開に期待―(2019.12.04)
- 全ての光を吸収する究極の暗黒シート-世界初!高い光吸収率と耐久性を併せ持つ黒色素材-(2019.09.03)
- バイオプラスチック原料を大量合成する技術を開発 ~環境調和型触媒反応プロセスによる,再生可能資源を活用したバイオ化学品製造技術~(2019.07.24)
- 「亀裂」と「光」で世界最小サイズの絵画の作製に成功 -インクを使わずに超高精細な印刷が可能に-(2019.06.25)
- 福島原発事故によって飛散した放射性微粒子の溶解挙動を解明(2019.05.16)
この記事へのコメントは終了しました。
コメント