胚の脳形成を照らし出す蛍光プローブ
26 July 2013
RIKEN Research Highlights
詳細は、リンクを参照して下さい。
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発生中の胚における
「ボディープラン(体制)」の形成は、
胚中のモルフォゲンと呼ばれる
シグナル伝達分子の濃度分布によって誘導
され、胚の前後軸および左右軸が決まって
いく。
理研脳科学総合研究センター細胞機能
探索技術開発チームの宮脇敦史
チームリーダー(TL)と下薗哲研究員たち
の研究チームはこのたび、生きた胚で
モルフォゲンの一種レチノイン酸(RA)の
分布を可視化できる初めての蛍光プローブ
を開発、胚発生時の体のパターン形成に
モルフォゲンが果たす重要な役割について、
新たな手がかりを得た1。
モルフォゲンは胚の特定の領域で産生
されて発生中の生物の体を拡散していき、
その結果生じる濃度勾配が、胚の形態形成
を誘導する。
RAは、脳の前後軸の形成に極めて重要な
役割を担うと考えられているが、
その濃度勾配がこれまで直接的に観察
されたことはなく、果たしてRAの濃度勾配
が本当に存在するのか、という議論まで
出ていた。
そんな中、研究チームは、
遺伝子操作技術を用いてシアン色(水色)
と黄色の蛍光タンパク質をRA受容体の一部
と連結したプローブを作製し、
このタンパク質をゼブラフィッシュの胚で
発現させた。
GEPRA(Genetically Encoded Probe for
Retinoic Acid)と命名された
このプローブは、RAに結合すると構造が
変わり、それに伴って発する蛍光の色も
変化する。
この手法のポイントは、RAに対する
結合親和性が異なる2種類のプローブを使う
ことにある。
一方のプローブはRAに非常に強く結合
するが、もう一方は比較的弱く結合する
ため、それぞれが異なるRA濃度に応じた
蛍光を発する。
これにより、生きたゼブラフィッシュ胚
の内部におけるRA濃度の変化を、
蛍光イメージングによって可視化すること
が可能になったのだ(図1)。
今回のイメージング研究によって、RAが
実際に、胚発生の初期の後脳形成領域で
濃度勾配を作って分布していることが確認
された。
「RAは胚の真ん中で合成され、頭部と
尾部で分解されます。
そのため、RA濃度は胚の真ん中で最も
高く、それが両端に向かって低下していく
2つの濃度勾配が形成されると考えられ
ます」と下薗研究員は説明する。
RAは、繊維芽細胞増殖因子8(FGF8)と
呼ばれる別のモルフォゲンとも相互作用
することが知られており、FGF8はこれまで、
RAの濃度勾配の形成と密接に関連すると
考えられていた。
しかし今回、後脳形成中にFGF8を阻害
してもRA濃度は影響を受けないことが
わかったため、FGF8はRAの濃度勾配形成
には必要ないのではないか、
と研究チームは考えている。
「今後はGEPRAを使って、RAが体内を
拡散する機序を、細胞レベルおよび
分子レベルで調べたいと考えています」
と下薗研究員は語っている。
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形態形成に重要なシグナル分子を
可視化出来たというのは素晴らしい。
「百聞は一見にしかず」です。
今後の研究に期待したい。
関連投稿です。
2013年7月26日 京都大学
>モーガンは、
>何らかの「物質の濃度勾配」が体の
>前後の位置情報をコードしている
>のではないかという仮説を提唱
モーガン仮説と言われているそうです。
>本研究グループは100年来のモーガンの
>仮説の大枠を分子レベルで実証した
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