肥大化するマイナンバー制度、不要な機能を盛り込む"愚策" 村上憲郎のグローバル羅針盤(44)
肥大化するマイナンバー制度、
不要な機能を盛り込む"愚策"
村上憲郎のグローバル羅針盤(44)
2012/7/31 日本経済新聞
詳細は、リンクを参照して下さい。
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マイナンバー制度のムダ構造の根底
には、見過ごすことのできない概念上の
混乱がある。
これは前回、指摘だけしておいた
ように、「納税者番号」「身元保証」
「本人確認」「国民ID」「民間ID」等々
の諸概念の区別と連関に関する混乱
である。
今回は、お約束したように、その辺を
中心に解説させていただくことにする。
まずは「本人確認」という言葉から
考えてみたい。
実は「本人確認」という言葉は、厳密には
「(1)身元確認」
「(2)当人確認」
「(3)真正性確保/属性情報取得」
という3つの要素で構成されるが、
一般的にはこれらの要素が区別される
ことなく使われていることが多い。
それぞれについて簡単に解説する。
初めに
「(1)身元確認」であるが、
例えば警官が職務質問する際、運転免許証
などの自分が誰であるかを証明できる手段
の提示を求めるといったことである。
一般には、信頼できる機関が発行した
証明書に記載された顔写真
(身体の形質情報)と、実物の当人の顔
(形質)を見比べることで、その人が
証明書に記載された人物であることを確認
することを言う。
次に
「(2)当人確認」とは、
例えば、インターネット上のサービスに
アクセスしてきた者が、同サービスに
登録されたどのユーザーであるかを確認
することである。
通常、当人確認はサービスにログイン
する際に、ユーザーにIDやパスワード
等の入力を要求し、それを認証すること
により行われる。
最後に
「(3)真正性確保/属性情報取得」
であるが、「真正性確保」とは
ある人物が提示する情報
(例:マイナンバーなどの番号)が
本当に正しいか(真正であるか)を
確かめることであり、
「属性情報取得」とは真正性が確保された
情報を元にデータベースに照会し、
その人物の他の属性情報
(課税情報、給付情報等)を取得する
ことである。
これら「本人確認」の3つの要素
について、すでに国民に社会保障番号
(SSN:Social Security
Number)という番号が振られている
米国での銀行口座開設を例にとって説明
する。
「Noriさん」が銀行の口座を開設
したいとする。
Noriさんは銀行の窓口で
運転免許証を提示する。
窓口の銀行員は運転免許証の顔写真と
Noriさんの顔を見比べることで、
その運転免許証が目の前の人物のもので
あることが分かると同時に、当該人物は
運転免許証の券面に記載された属性
(氏名、生年月日、性別、住所等)を
持つ人物であることを知ることが
できる[(1)身元確認]。
次にNoriさんは自分の「社会保障番号」
を口座開設申込書に記載する。
銀行員は記載された社会保障番号と
Noriさんの氏名を社会保障局に
問い合わせることにより、記載された
番号が正しいものであることを知ること
ができる。
銀行員はこの社会保障番号を使って、
信用情報機関からNoriさんの
クレジットヒストリーを取得し
[(3)真正性の確保/属性情報の取得]、
口座開設を行って問題ない人物かどうか
を確認する。
問題がなければ無事にNoriさんの
口座が開設されることになる。
後日、銀行からNoriさんに
インターネットバンキングのIDと
パスワードが通知される。
Noriさんはそれ以降、このIDと
パスワードを使って
インターネットバンキングにログイン
できるようになる[(2)当人確認]。
この例で見てきたように、本人確認の
3つの要素である
(1)身元確認、
(2)当人確認、
(3)真正性確保/属性情報取得
に必要なのは、
実はそれぞれ、
・「運転免許証のような身元証明書
(身分証明書)」、
・「ID/パスワード」、
・「社会保障番号のような番号」である。
マイナンバー制度の問題点は、本来、
「社会保障・税の一体改革」のためだけ
であれば、国民に「番号」を配って
その「番号」を元に所得と給付の情報を
確認できれば良いだけ
[(3)真正性確保/属性情報取得]で
あるにも関わらず、
(1)身元確認や
(2)当人確認まで範囲に含めてしまって
いることであり、また、そのすべてを
一つの「番号」で実現しようとしている
ことである。
これは、マイナンバー制度の立案者が
「本人確認」という言葉を整理せず、
曖昧に使っているがゆえに起きた問題
である。
整理がなされないままに、全てを
「本人確認」と曖昧に扱い、
「マイナンバー」を導入すれば全て
解決するといった大ざっぱな議論をする
ことの弊害は大きい。
本来、国民の公平な負担と給付を目的
としたマイナンバー制度とは関係のない
範囲までそのスコープに含めてしまうこと
になり、制度の複雑化とそれに伴う
システムの肥大化、ひいては税金の膨大な
無駄遣いにつながる危険性をはらんでいる
のである。
問題は費用だけにとどまらない。
前回にも注意を促したように、一種類の
番号を広範な用途で使用することは、
大きなセキュリティーリスク、
プライバシーリスクを招くことになる。
例えば韓国では共通番号である
「住民登録番号」を身元証明書に記載
したり、インターネットにログインする際
の認証に用いたりといったことがなされて
きた。しかしながら、番号をありと
あらゆる場面で多用することによって、
番号にひも付く情報の漏洩やなりすまし
犯罪が多発したため、現在では身元証明書
から「住民登録番号」を削除する、
当人確認用途での「住民登録番号」の利用
を禁止する、といった対応をとっている。
米国でも以前は社会保障番号を共通番号
としてあらゆる場面で用いていたが、
現在は利用場面を制限する方向に変わって
きている。
外国の先行事例があるにもかかわらず、
日本は同じ過ちを犯そうとしている
のである。
本来、マイナンバー法の範囲は、
社会保障・税の一体改革のための用途に
絞り、それをどこまで安く早くできるかに
注力すべきである。
身元確認、当人確認については、
それぞれ身元証明書制度、国民ID制度
として、別途検討すべきである。
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一考に値すると思います。
>、一種類の番号を広範な用途で使用する
>ことは、大きなセキュリティーリスク、
>プライバシーリスクを招くことになる。
>外国の先行事例があるにもかかわらず、
>日本は同じ過ちを犯そうとしている
>のである。
危惧しています。
住民基本台帳カードですらきちんと
運用できていない。
海外の事例に学び、何をしたいのか?
そのための方法を漠然とした
イメージではなく、具体的な方法論
として議論して頂きたい。
マイポータルは机上の空論に等しいと
思う。実現には大規模なシステムと
資金が必要で、実際そんなに利用される
とは思えない。
>本来、“ログ”を見たいという
>人物・機会はそう多くないはずである
>から、市役所に出向けば確認できる、
>といった形で十分なはずである。
同感です。
なんでも出来ると言うのは、実はかなり
怪しいシステムだと私は思っています。
しっかり議論して貰いたい。
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この記事へのコメントは終了しました。
コメント
非常に為になりました。
投稿: 龍 | 2012年8月 2日 (木) 09時30分
お役に立ててなりよりです。
「村上憲郎のグローバル羅針盤」はなかなか良い記事だと思います。
投稿: haredasu | 2012年8月 2日 (木) 15時23分