インスリンの発がん疑惑が米国糖尿病学会で氷解
インスリンの発がん疑惑が
米国糖尿病学会で氷解
4 Jul 2012
【個の医療メール Vol.439】
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元祖バイオ医薬であるインスリンの発がん
疑惑が、発売後30年を経て、やっと
今年6月11日の米国糖尿病学会で、氷解し、
会場はスタンディングオベーションの嵐と
なりました。
単純な話ですが、インスリンは極めて
強力な細胞増殖因子です。
ITES培地は哺乳類の細胞培養に不可欠な
増殖培地ですが、その構成成分には
インスリン、トランスフェリン、
エタノールアミン、セレンが含まれて
います。
従って、多くの医師達はインスリンの
投与が細胞増殖を招き、発がん性を示す
懸念を感じていました。
しかし、重篤な糖尿病患者の生存に
インスリンは不可欠です。
リスク(実際には科学的根拠は示されて
いない疑惑)とベネフィットを秤に掛けて、
治療が医師の心の中では行われていた
のです。
先月の米国糖尿学会の発表に、会場の
医師たちが狂喜乱舞したのは、長年の懸念
が晴れたためなのです。
正直、皆さん、ほっとしたのです。
インスリン療法の発がん疑惑は90年も
続いていたのです。
今年発表された国際共同治験「ORIGIN」
はそのもやもやをすっきりと取り去った
結果となりました。
ランタスの製造・販売企業である
仏Sanofi社が依頼した試験ですが
カナダMacMaster大学を中心とした世界51人
の医師で構成される独立の運営委員会に
よって遂行された臨床試験です。
ランタスの発がん性論文が発表された
09年より前の2002年から試験デザインが
始まり、臨床試験は03年2月に始まって
います。
その意味では、企業が発がん性の論文の
反論のために行った臨床試験とは別格の
試験です。
実際、日本は不参加ですが、世界40カ国、
573施設から1万2537人の糖尿病と前糖尿病
疾患の患者が登録され、ランタス治療群と
標準治療群、それに加えて、ω3脂肪酸の
投与の有無を組み合わせた、4つのグループ
を6.2年(中央値)追跡調査した結果を
まとめた、大規模な前向き試験です。
今まで、インスリンの発がん性の有無に
答えを与える、これほど大規模な前向き
試験はありませんでした。
結果は、がん死、発がん全体でも、
部位別(肺がん、結腸がん、乳がん、
前立腺がん、メラノーマ、皮膚がん全体、
そしてその他のがん)でも、ランタス投与群
ではまったく差が認められませんでした。
ハザード比でがん死亡率は0.94、
がんの発生全体では1.00でした。
勿論、科学研究ですから、この結果が
真と認められるためには追試が必要ですが、
これだけ大規模で人種を超えた精密な
前向き研究な結果ですから、発表した
米国糖尿病学会の聴衆が、しかも発がん性
疑惑の中心だった持続型インスリン、
ランタスの疑惑が否定されたことから、
直感的にインスリンの発がん疑惑が晴れた
ことを受け入れたのです。
ORIGIN試験自体の主要評価項目である
早期のインスリン治療によって、
心筋梗塞など心臓血管イベントのリスクを
低減するということは証明できず、
ω3脂肪酸のリスク低減効果も証明
できない、と実は不発に終わった臨床試験
でした。
しかし、皮肉にも副次評価項目である
発がん性の否定と早期治療によって糖尿病
の進行が抑制されることを証明したこと
によって、歴史に残る臨床試験と
なりました。
インスリン実用化、90年目にして安寧を
得る。
バイオ研究は分からぬことばかりです。
粘り強く、安全性や有効性のデータを
検証し続けなくてはなりませんね。
こうした誠実な科学者や関係者の
持続的な努力こそが、患者さんの安心を
生む絆を形成するのです。
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素晴らしい臨床試験でしたね。
>バイオ研究は分からぬことばかりです。
>粘り強く、安全性や有効性のデータを
>検証し続けなくてはなりません
そうですね。
謙虚に、誠実に、
>こうした誠実な科学者や関係者の
>持続的な努力こそが、患者さんの安心を
>生む絆を形成するのです。
同感です。
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