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2011年7月14日 (木)

提言「原発ゼロ社会」

(社説)提言「原発ゼロ社会」
2011年07月13日 朝日新聞

将来を考えた時、今こそ「原発ゼロ社会」
へ転換すべきであると考えてきました。
その考えに沿った記事が出ましたので、
紹介しておきたい。

原発は、現在は良くても将来に大きな
宿題を残します。
後の世代に先送りするものではないと
考えます。

ウランは有限資源です。
いつまでも稼働し続けることは不可能です。

発生する放射性廃棄物は何十万年にも
わたって汚染物質であり続けます。
管理不能です。

こんなものを後の世代に残して良いので
しょうか? とても良いとは思えません。
これ以上増やすことは許されません。

「原発ゼロ社会」へ向けての提言です。
コメントはしません。
将来を考える議論の参考にしてください。

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 脱原発を進めるポイントは、時間軸を
もつことである。

 原発の寿命は40年がひとつの目安と
されている。もう新たな原子炉は建設せずに
40年で順に止めていくと、2050年には
ゼロになる。これでは遅すぎるが、代替電源
の開発・導入に力を入れ、節電にも努めれば、
ゼロの日をそれだけ早めることができる。

 代替電源の希望の星は、風力や太陽光を
始めとする自然エネルギーだ。

 これを増やす方向へエネルギー政策を
転換し、電力会社による地域独占体制を
抜本的に改めて自由化を進める。

 ただし、まだまだコストが高い。

 急激に導入すれば電気料金を押し上げ、
暮らしや経済活動の重荷になる。

 どのていどの値上げなら受け入れ可能か。
 危険な原発を減らすことと天秤にかけ、
国民的な合意をつくりつつ廃炉のテンポを
決めていくことが大切だ。

 また、それまでには時間がかかるので、
当面は天然ガスなどの火力発電を強化
せざるをえない。

 二酸化炭素を出し、地球温暖化の防止
にはマイナスに働くが、自然エネルギーの
開発と省エネを進めていき、長期的には
脱原発と両立させねばならない。
 それが日本の国際的な責任でもある。

 たとえば「20年後にゼロ」という
目標を思い切って掲げ、全力で取り組んで
いって、数年ごとに計画を見直すことに
したらどうだろうか。

 きょうの社説特集は「原発ゼロ社会」へ
向けたデッサンにすぎない。
 必要なのは国民的に議論を深めながら、
やれることから早く実行へ移していく
ことである。(おおのきよしのり)

-------
原発の段階的削減をどういう手順で
進めるか――。
 「新たな原子炉はつくらない」
 「古いものは閉めていく」
 それが基本シナリオだろう。

 まず急ぐべきは、今回の事故を教訓
とした新たな安全基準や防災計画の設定
だ。

 これは新たな原発建設に適用する
のではなく、既存原発を「仕分け」する
尺度となる。この基準に照らして補強が
技術的に難しかったり、コストが見合わな
かったりする原発は前倒しで廃炉にして
いく。

 防災対策も同様だ。これまで原発から
おおむね半径10キロ以内が避難区域の
対象だったが、今回は30キロを超える
地域にも被害が及んでいる。
 範囲を広げると、居住人口や関係自治体
が一気に増える。
 それでも避難が可能なのか、冷静に
見極めなければならない。

 基準や計画が改まっても、実際の運用で
骨抜きにされてきたのが、過去の原子力の
歴史だった。

 電力会社は地質や津波などの情報を
握っていながら、都合のよいものしか
出さない。

 こうしたご都合主義を排除するには、
専門的な立場から批判的に安全性を
チェックする仕組みが不可欠だ。

 今回の事故で機能を果たせなかった
原子力安全委員会は、地震学など
原子力以外の専門家もメンバーに加える
とともに、原発の定期検査についても
法的権限を与えて関与させる。

 原子力安全・保安院は、原発を推進して
きた経済産業省から分離し、新たな
原子力安全委員会の実動部隊として位置
づける。米原子力規制委員会(NRC)
などが参考になろう。

 原発の廃止にともない、立地自治体の
再生も課題となる。原発による歳入が減り、
雇用が失われることへの懸念は大きい。

 ただ、廃炉完了までには20年から
30年はかかる。
 その間、原発に依存しない地域づくりに、
周辺自治体とともに取り組んでほしい。

-------
 原発を減らしつつ、電力を確保する。
 それを実現させるキーワードは
「電源の分散」と
「発電と送電の分離」だ。

 災害や危機に強い電力体制をつくるには、
既存の電力会社だけに頼らず多様な事業者
に発電を担ってもらい、電源を分散させる
ほうがいい。太陽光など消費地で発電する
「地産地消」も広げたい。

 そのためには、さまざまな発電業者が
公平に接続できる送電網が不可欠だ。

 今後は原子力に代わる電力を探さなければ
ならない。

 自然エネルギーや小規模なガスタービン、
あるいは企業の自家発電設備や太陽光など
の設備をつけた家庭から生まれる余剰電力
といった多様な電源を、もっと活用する。

 それには、送電部門を発電部門から
切り離し、もっと公平に運用する体制を
整えるべきだ。

 そうすれば発電業者や小売業者の競争
を促すことにもなり、電気料金を抑制する
効果も期待できる。

 ただ、地域独占の弊害から、送電網は
電力会社ごとに事実上分断されている。
 狭い日本の東と西で周波数が別々なのも、
世界から見れば非常識だ。

 これからは需要側が自ら発電したり、
限られた範囲で電気を融通しあったりする
ことも想定しなければならない。

 ところが、これまでの送電網は大規模
発電所から需要側への一方通行を前提に
つくられている。

 逆の潮流を受けても電圧や周波数に
影響が出ないよう、新たな技術を使って
賢い送電網(スマートグリッド)にする
必要がある。

 送電網の経営主体も議論になろう。
 国有化がいいのか、一企業の経営と
するのか、利用者組合などの組織に委ねる
か。電力融通や公平な接続を促す規制・
監視機関も考えなければいけない。

 こうした改革は、一朝一夕にはできない。
 新たな電力体制に向けて、すぐに効果を
あげられるのは、省エネ、節電といった
「需要側の改革」だ。

 たとえば、家庭での電気の使い方。
 電力需要に占める家庭消費の割合は
戦後ほぼ一貫して伸び続け、今では
約3分の1を占める。

 今回の電力不足のように、ピーク時の
需要抑制が必要な場合、家庭内での
電力調整は、きわめて重要だ。

 どんな時間帯にどんな機器でどれだけ
電気が使われているかがわかる
「スマートメーター」の導入を急ぎたい。

 電力を供給する側とデータを共有すれば、
時間別や電源別の料金体系を設け、
電力の安い時間帯にうまく家電を動かす
ような工夫も可能になる。

 情報家電や電子機器に強い日本だから
こそ、世界に先駆けた試みができるはずだ。

 原発事故の処理や資源価格の上昇、
自然エネルギーの固定価格買い取り制度
の導入などを考えると、電力料金は当面、
値上げの方向にある。

 家計や経済への負荷を減らす意味でも、
節電を軸に賢い電気の使い方を追求する
ときだ。電気を使いたいだけ使い、
供給は「お任せ」にしてきた姿勢を
改めなければならない。

-------
 温暖化が国際問題になった1990年と
2010年を比較すれば、世界の風力発電
は100倍以上になった。

 原発の総設備量(3・7億キロワット)
に対し、風力は同1・9億キロワットに
迫り、毎年4千万キロワットずつ伸びて
いる。世界全体で電気の2・5%を、
欧州連合(EU)に限れば5%を発電して
いる。

 ドイツが今年、脱原発を決めた背景には、
この10年間で自然エネルギーによる発電
を4%から17%に急増させたことがある。
 主力は風力だ。
 風力は実用的な電源になった。

 太陽光発電の世界の導入量は4千万
キロワット近い。風力より少ないが急伸し、
昨年の増加は原発15基分にあたる
1500万キロワットを超えた。

 最近は、熱を集めて発電機をまわす
太陽熱発電もある。

 日本の政府も電力業界も、自然エネルギー
について、「頼りにならない」
「変動する使いにくい電源だ」として、
まともには育ててこなかった。

 安く大量の電気を供給する原子力さえ
あれば安心だという考えが背景にあった。

 資源エネルギー庁が04年に試算した
1キロワット時あたりの発電コストは、
一般水力11・9円、石油火力10・7円、
液化天然ガス(LNG)火力6・2円、
石炭火力5・7円で、原子力を一番安い
5・3円としている。

 ただこの計算には、原発1基につき
運転開始までの10年間で地元自治体に
400億円以上支払う交付金などは入って
いない。

 もちろん数兆円に及ぶ事故処理費用
も入っていない。

 政策を変えよう。昨年できたエネルギー
基本計画では、「自然エネルギーは20年
までに1次エネルギーの10%」にする
一方、原発は9基増やすとした。

 もう原発を増やすことはできない。
 原発依存を減らし、自然エネルギーを
増やす方向にかじを切らなければならない。

 自然エネルギーに投資すればビジネスが
なりたつ社会にしたい。

 まずは、自然エネルギーで発電した
電気を、電力会社に固定価格で全量を
買い取らせる制度が推進力になる。

 自然エネルギーは世界の市場が急拡大
している分野だ。

 国内市場を広げて技術を育て、日本の
輸出産業に育てたい。

-------
 今後、脱原発を進めても、稼働している
原発があるかぎり、「高レベル放射性
廃棄物」である使用済み燃料は出続ける。
これらをどう始末するか。

 廃棄物処理に大きく関係するのが核燃料
サイクル政策だ。

 使用済み燃料を再処理してプルトニウム
を取り出し、高速増殖炉(FBR)で
また燃料として使う仕組みである。

 ところが、その要となる二つの施設は
巨額の費用を投じながら、見通しが立って
いない。

 日本の原子力政策の中でも、核燃料
サイクルは特に経済性や核不拡散の点から
問題になってきた。

 2005年に現行の原子力政策大綱が
策定される際の議論では、核燃料サイクル
は、使用済み燃料を処理せずに埋設する
方法より、割高だという試算が示された。

 それでも政策を継続したのは、「路線を
変更すると過去の投資が無駄になり、
新たな研究も必要。
 立地地域との信頼も崩れる」という理由
だった。

 しかし、原発ゼロを目指せば、「50年
ごろまでにFBRを実用化する」という
核燃料サイクル計画は続ける意味合いも
なくなる。撤退するしかない。

 プルトニウム利用をやめれば日本の
核不拡散外交を強めるカードにもなる。

 また、再処理のために電力各社が
積み立てている2兆4千億円を超える資金
や、停止中でさえ1日5千万円かかる
もんじゅの維持経費にも、他の使い道が
出てくる。

 今まで国策として動いてきた核燃料
サイクル政策を変えることで、施設を
受け入れてきた地元の反発など、
さまざまな問題が出るだろうが、解決する
道を探りたい。

 ただ、核燃料サイクルをやめても、
放射性廃棄物を処分する場所がないことに
変わりはない。

 日本をはじめ原発をもつ国々の多くは、
こうした「原発のゴミ」は地下深くに
埋めて、人間社会から隔離した状態で管理
する方針を打ち出している。

 しかし、処分場の場所を決められたのは
北欧ぐらいしかない。

 原発のゴミの始末は、原発の電気を
使ってきたわれわれの世代が責任を
もって取り組むべき仕事だ。

 経済協力開発機構(OECD)原子力
機関も95年、原発のゴミの後始末を
「いまの世代の責任」だとする原則を
打ち出した。

 次世代に丸投げしてはならない。
 少なくとも国内で処理する道筋は
つけなければならない。

 原発を造ることではなく、廃棄物の
処理に情熱を燃やし、世界をリードする。
 そんな原子力技術者を育てていくこと
も必要だ。
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