全ての生命現象には陰と陽の分子があり、2枚の切り札が拮抗して調節されているバランスの仕組みがある
全ての生命現象には陰と陽の分子があり、
2枚の切り札が拮抗して調節されている
バランスの仕組みがある
2011年06月20日
Biotechnology Japan:Webmasterの憂鬱
詳細は、リンクを参照して下さい。
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生命現象でも2枚の切り札が拮抗して調節
されていることが多いことが分かって
きました。
今月の初め、京都で開催された日本炎症・
再生医学会で、東大医科学研究所感染・
免疫部門感染遺伝学分野の三宅健介教授の
発表によれば、自己免疫疾患の増悪・
改善は自然免疫系のセンサーであるToll様
受容体(TLR)のTLR7とTLR9の2つの分子の
バランスによって調節されています。
何故、RNAとDNAを認識する同じ機能を持つ
TLR7とTLR9が共存しているのか、常々疑問に
思っておりましたが、三宅先生の研究でその
意味が良く分かりました。
あまり単純化するのは好きではありません
が、TLR7は悪玉、TLR9は善玉のセンサーと
言えるでしょう。
自己免疫疾患では患者自身のDNAを認識
して自己抗体が産生されておりますが、
これを介在しているのがTLR7です。
自己免疫疾患の特徴である慢性炎症の
引き金を引きます。
驚いたことにTLR9はTLR7と拮抗すること
によって、慢性炎症を抑止、自己免疫疾患
の発症を防いでいました。
ここにも2因子拮抗システムが
ありました。
TLR7を欠損させると慢性炎症が
起こらず、TLR9を欠損させると慢性炎症を
抑止できなくなるのです。
最近、国立がん研究センター研究所
エピゲノム解析分野の牛島俊和部門長の
お話をうかがう機会もあり、H.pyroli菌が
胃壁に感染することで慢性炎症を引き
起こし、胃の上皮細胞のゲノムDNAの
メチル化のパターンを変え、これが胃がん
発生の起因となることを知りました。
インターフェロンγなどが引き起こす
慢性炎症は諸悪の根源かも知れません。
自然免疫システムはTLR7/9をバランス
させることによって、外部からの細菌や
ウイルスの侵入を防御し、自己の細胞に
由来したDNAによる免疫系の誤作動による
慢性炎症を抑止していました。
では、そのバランスの仕組みは何か?
三宅先生のグループはUnc93B1という
たんぱく質がTLR7とTLR9を選択的に
樹状細胞、マクロファージ、B細胞などで
エンドリソソームに運搬することを突き止め
ました。
エンドリソソームは、細胞がどん食作用
で外部から取り込んだ細菌やウイルスを
分解する細胞内小器官で、ここでTLR7や
TLR9がDNAやRNAを認識して、自然免疫系を
作動させます。
Unc93B1は通常はTLR9を優先的に
エンドリソソームに運搬し、感染した菌や
ウイルスを認識させ、免疫系を作動させ
ながら、自己免疫疾患の発生を抑止して
います。
自己免疫疾患ではこのメカニズムが、
TLR9を優先してエンドリソソームに運搬する
ようになり、病態が悪化するのではないかと
考えています。
Unc98B1やこの分子の調節機構は
自己免疫疾患の新たな治療標的になる可能性
があります。
もし低分子の経口阻害剤が開発できれば、
活性化したB細胞を抗体医薬で全部破壊する
過激な治療法や今年の3月に米国で承認と
なったB細胞の活性化補助因子、Blys抗体
「Benlysta」を長期使用するよりは穏やか
で、予防的で、しかも医療費もそんなには
かからない、自己免疫疾患の治療薬が誕生
するかも知れません。
全ての生命現象には陰と陽の分子があり、
そのせめぎ合いによって生命が展開される。
2因子拮抗システムは、学生時代の頃に
熱中した道教の思想にも似ています。
今後、こうした2因子拮抗システムの
高次構造として生命を捉える
システム生物学の進展に大いに期待したい
と考えています。
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本当に勉強になります。
>全ての生命現象には陰と陽の分子があり、
>2枚の切り札が拮抗して調節されている
>バランスの仕組みがある
>こうした2因子拮抗システムの
>高次構造として生命を捉える
>システム生物学の進展に大いに
>期待したいと考えています。
こういう事実もあるんですね。
私も期待したい。
>Unc98B1やこの分子の調節機構は
>自己免疫疾患の新たな治療標的になる
>可能性があります。
なるほど。
>もし低分子の経口阻害剤が開発できれば、
>活性化したB細胞を抗体医薬で全部破壊
>する過激な治療法や今年の3月に米国で
>承認となったB細胞の活性化補助因子、
>Blys抗体「Benlysta」を長期使用するよりは
>穏やかで、予防的で、しかも医療費も
>そんなにはかからない、自己免疫疾患の
>治療薬が誕生するかも知れません。
良いですね。
こういう話もありますが、
「B細胞が多発性硬化症の悪化を
制御する仕組みを解明」
今回の話の方が本質に迫っているような
気がします。
とにかく免疫システムは本当に複雑です。
今後の発展に期待したい。
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