独立した臨床サブタイプとしての “PSP with cerebellar ataxia”(小脳失調を呈する進行性核上性麻痺)
独立した臨床サブタイプとしての
“PSP with cerebellar ataxia”
(小脳失調を呈する進行性核上性麻痺)
2011年05月07日 Neurology
詳細は、リンクを参照して下さい。
ちょっと気になったので紹介して
おきます。
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最新号のActa Neuropathologicaに,
神経病理学の巨人Kurt Jellinger先生を
称える論説が掲載された.
パーキンソン病やアルツハイマー病の
病理学的・生化学的研究に大きな貢献を
果たし,そして長年に渡り同誌のeditorを
努められた先生である.
80才の誕生日を迎えた今もなお現役で
研究を継続されておられる.
そして今でも最もreviewが早いreferee
としても知られている(論文を受け取って
24時間以内には返す).
さて,話が代わって標題の進行性核上性
麻痺(PSP)について.PSPの臨床概念は
近年,大きな変貌を遂げた.
このきっかけとなったのは,2005年に
Brain誌に発表されたWilliamsらによる
英国での臨床病理研究である.
この研究は,
①病初期に核上性垂直性眼球運動麻痺,
転倒,姿勢反射障害,認知障害を呈する
古典的なRichardson症候群(RS)は
約半数のみであること,
②非対称性発症,振戦,L-DOPA反応性良好
を呈し,病初期にはパーキンソン病と
鑑別が困難なPSP-parkinsonism(PSP-P)
が約1/3存在することを示した.
その後,いずれにも属さない,失行など
の大脳皮質症状を主徴とする症例も報告
された.
2009年,私どもは,同様の方法で,
病理学的に診断が確定したPSP症例の
臨床像を検討し報告した.
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/19412943
対象は,病理学的にPSPと診断した
22例.RS が10例,PSP-Pが8例と分類
できた.
のこりの4例のうち3例は,初発症状や
主要症状が失調症状で,1例は大脳皮質症状
を主徴とした.
失調症状を呈した3例は,失調症状を
呈さなかったほかのPSP症例と比較して,
小脳歯状核の高度のグリオーシスを伴う
神経脱落とcoiled body(PSPで認める
ミクログリアのタウ病理)が特徴的で,
かつプルキンエ細胞内にはタウ陽性構造物
を認めた.この結果から,日本人でも
PSP-Pが存在すること,
そして小脳失調症状を呈するPSPが存在する
ことを初めて指摘した.
本論文はインパクトのある内容と思うが,
いくつかの学術誌に認めてもらえ
なかったり,国際学会の場でも
「本当ですか?」という反応が少なく
なかった.
欧米では小脳失調を主徴とするPSPが存在
しないため,懐疑的に捉えた人が少なからず
いたということなのだろう.
実際,この論文に対する反応は海外では
ほとんどなかったのだが,Kurt Jellinger
先生がMov Disord. 誌のLetterという形で
自験例の検討を以下のように報告して
くださった.
“PSP with cerebellar ataxia”は
PSPのひとつの臨床サブタイプといえよう.
自験30例(オーストリア)の検討を
行った.
RSは18例,PSP-Pは12例で,1例も
小脳失調を初発ないし主要症状とした症例
は存在しなかった.
しかし2例(6.7%)が,進行期に小脳失調
を呈した.
病理学的検討では,RSのうちの2例で
のみ,プルキンエ細胞内のタウ陽性構造物
を認めた.
その2名は進行期における小脳失調を
呈した症例だった!
結論として,
“PSP with cerebellar ataxia”という
病型は,人種ないし遺伝学的素因を背景
の相違が反映されるのかもしれない,
と結んでいる.
Jellinger先生からのLetterはとても
光栄で,研究を行う励みにもなった.
結論だが,小脳失調で発症したものの,
経過中,核上性垂直性眼球運動麻痺,
姿勢反射障害,認知障害など多彩な
神経所見を合併した場合は,PSPである
可能性も検討する必要がある.
多系統萎縮症などと診断された症例の
中に非典型例として含まれている可能性が
ある.
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興味深い話だと思う。
>結論だが,小脳失調で発症したものの,
>経過中,核上性垂直性眼球運動麻痺,
>姿勢反射障害,認知障害など多彩な
>神経所見を合併した場合は,PSPである
>可能性も検討する必要がある.
>多系統萎縮症などと診断された症例の
>中に非典型例として含まれている
>可能性がある.
とのこと。
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