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2011年5月 9日 (月)

EML4-ALKがん遺伝子の発見から臨床応用まで

EML4-ALKがん遺伝子の発見から臨床応用
まで

東京大学大学院医学系研究科
ゲノム医学講座
自治医科大学 ゲノム機能研究部
間野博行
2010年6月14日 MRIC
by 医療ガバナンス学会

詳細は、リンクを参照して下さい。
肺がん遺伝子の発見~薬の開発
に関わる話です。

---------------------------------------
 MRIC編集長 上昌広です。

 2010年6月4日~8日、シカゴで第46回米国
臨床腫瘍学会(ASCO)が開催されました。

 がんに携わる医師、研究者そして企業が
一堂に会する世界最大級の学会です。

 今年のASCOでは、EML4-ALK融合遺伝子を
有する肺癌に対するALK阻害剤による
分子標的療法が大きく取り上げられ、
本学会最大の話題になっています。

 このたび、このEML4-ALK融合遺伝子の
発見者である間野博行教授に、がん遺伝子
発見から薬の開発、臨床試験までの経緯を
舞台裏も含めて緊急投稿して
いただきました。

 日本で発見された分子標的にも
かかわらず、薬の臨床試験は日本抜きで
海外で始まり、日本の患者さんを韓国に
紹介せざるをえなかったというこの事例
は、日本の臨床試験ひいてはドラッグラグ
の現状を象徴する出来事であるように思え
ます。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 我々は微量の臨床検体から、そこで発現
しているcDNAの機能スクリーニングを可能
にする新しい手法を開発し、肺癌(腺がん)
の検体から新しい融合遺伝子EML4-ALKを
発見しました
(Nature 448:561-566, 2007年8月)。

 ALKは受容体型チロシンキナーゼを
コードしますが、染色体転座の結果ALKの
酵素活性領域がEML4のアミノ末端側約半分
と融合した融合キナーゼが産生される
のです。

 ちょうど慢性骨髄性白血病において
t(9;22)の結果ABLチロシンキナーゼがBCR
と融合してがん化キナーゼになるように、
肺がんにおいても同様な
融合型チロシンキナーゼが存在していた
のでした。

 BCR-ABL陽性慢性骨髄性白血病に対して
ABLの酵素活性阻害剤(商品名:グリベック)
が特効薬と言えるほどの治療効果を有して
いることを考えますと、ALKキナーゼの酵素
活性阻害剤を作れば、肺がんにおける
「第2のグリベック」となるのではないか
と思われました。

 実際、EML4-ALKを肺胞上皮特異的に産生
させるトランスジェニックマウスを作成
すると何百もの肺腺がんを多発発症します
が、これらマウスにALK酵素活性阻害剤を
投与すると肺がんは速やかに消失しました
(PNAS 105:19893-19897, 2008 年12月)。

 私は、日本で行われた発見なのでこれを
是非日本の国益に繋げたいと考え、海外
からの誘いを断って最終的に国内のある
製薬企業にこの遺伝子の特許を
ライセンスアウトしました。

 しかし我々の発見を受けて、ほぼ全ての
ビッグファーマが現在ALK阻害剤を鋭意
開発中です。
 おそらく上記国内の製薬企業を含めて
おそらく2~3社が今年中に臨床試験を開始
すると思われます。

 ところがファイザー社だけは2008年の
時点で早くもALK阻害剤による臨床試験を
開始いたしました。
 実はファイザー社の化合物(crizotinib)
はもともとMETチロシンキナーゼの阻害剤
として開発されたもので、消化器腫瘍の
一部でMET遺伝子の増幅があるためそれを
標的として作られたものでした。

 ファイザーにとって幸いなことに、
彼らのcrizotinibはMETと同じくらいALKに
対しても有効でした
(つまりdual-inhibitor)。

 そこで彼らは我々の発見を見て急遽
治験対象を変更し、EML4-ALK陽性肺がんを
標的に加えたのでした。

 その治験に参加したEML4-ALK陽性肺がん
患者が劇的な治療効果を得たことを自らの
ブログで公開しています。
http://www.inspire.com/groups/lung-cancer-survivors/discussion/eml4-alk-mutation/

 このブログを小生がある学会で紹介した
ところ、国内の呼吸器内科医の方から
「自分の診ている肺がん患者がブログの
患者さんと良く似た特徴を有している。

 ついてはその日本人症例の肺がんに
EML4-ALKがあるかどうかを調べてもらえ
ないか」との御連絡を頂きました。

 実際我々がその患者さんの喀痰を調べた
ところEML4-ALKが検出されました。

 そこで上記ブログの患者さんの治療施設
であるHarvard Medical Schoolへ日本人
患者の治験参加の可能性について
問い合わせたところ、驚いたことにその
ファイザー社の治験はソウルでも行われて
いることを教えられました。

 実際はボストン、ソウル、メルボルンの
3都市で行われた国際第一相臨床試験
でした。

 そこで上記日本人症例がソウル大の試験
に参加することになり、New York Times誌
に書かれているように、私がお見舞いに
行った際に劇的な治療効果を目の当たりに
することができたのです。

 ファイザーだけが極めて早くから
臨床試験を開始できたのは、彼らの幸運
(彼らが作っていたMET阻害剤がALK阻害剤
としても利用できた)なのですが、
そのアジアにおける臨床試験が、遺伝子が
発見された日本ではなくて韓国で行われた
ことは非常にショックでした。

 これは日本での臨床試験コストが高い
こと、また韓国が国策として臨床試験誘致
を極めて熱心に行っていること、などが
原因として考えられます。

 しかし、これだけの素晴らしい治療効果
を目の当たりにすると、日本のどこかで
EML4-ALKがあるかどうかもわからず死んで
行っている陽性肺がん患者を何とか助ける
ためにできるだけのことをしようと思い
ながら帰国いたしました。

 そこで癌研の竹内賢吾先生の御協力を
頂きながら、我が国全土に広がるALK融合
肺がんの診断ネットワーク(ALK肺がん
研究会:ALCAS)を2009年3月に立ち上げ
ました。

 これはボランティアで日本中のEML4-ALK
陽性患者を見つけ、少なくとも日本で試験
が行われるまでは海外における試験への
橋渡しをしよう(もちろん患者さんが希望
すればですが)というものです。

 またこのALCASは幸いにも科学技術振興
機構がサポートして下さいましたので、
企業からの援助を全く受けることなく
進めることができました。

 昨年3月から現在まで500例を超える
スクリーニングを行い、すでに20例近くの
陽性患者さんがソウルに渡り
crizotinib治験に入りました。

 これら参加患者さんは、少なくとも初回
治療においては全員劇的に効いております。

 またこの日本人の治験参加に際しては、
ソウル国立大学附属病院の
Yung Je Bang教授が手厚くサポートして
下さいまし た。

 ソウル大の病院内には日本人肺がん患者
さんのグループもできていたと聞きます。

 私は、「海外の患者さんが日本に助けを
求めてきたときにBang教授のようなことが
はたしてできるだろうか?」と自問せざる
を得ません。

 幸いにも2010年3月からいよいよ日本でも
ファイザー社のcrizotinib臨床試験
(第二/三相)が開始されました。
 また本年4月からは日本におけるEML4-ALK
診断の臨床サービスも企業によって開始
されています。

 なおソウル、ボストン、メルボルンで
行われた第一相試験の結果が今年の6月6日
に、米国臨床腫瘍学会(ASCO)の
プレナリー発表として行われ、またそれを
機にNew York Times誌や
Wall Street Journal誌などでEML4-ALKに
ついて記事が書かれたところです。

 こうして臨床試験が大成功を収めた
ALK阻害剤(crizotinib)は、ヒト固形腫瘍
の治療剤として現在人類が入手できる
ものの中で最も有効性が高い薬剤では
ないかと思われます。

 また他社のALK阻害剤が追いかけ臨床試験
にはいることで、より薬効の高いALK阻害剤
が最終的に選択されていくことになるかと
思います。

 僭越な言い方ですが、今回の発見と
それに基づく臨床応用は、我が国の
がん研究史上はじめて、がん患者の命が
直接我が国の研究によって救われた例だと
思います。
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>僭越な言い方ですが、今回の発見と
>それに基づく臨床応用は、我が国の
>がん研究史上はじめて、がん患者の命が
>直接我が国の研究によって救われた例
>だと思います。
素晴らしいことだと思います。

ですが、
>アジアにおける臨床試験が、
>遺伝子が発見された日本ではなくて
>韓国で行われたことは非常にショック
>でした。

>これは日本での臨床試験コストが高い
>こと、また韓国が国策として臨床試験
>誘致を極めて熱心に行っていること、
>などが原因として考えられます。
これはショックです。

なんで、日本には国策がないのでしょう?
ドラッグラグはずっと前から言われ続けて
いると言うのに、

>本年4月からは日本におけるEML4-ALK
>診断の臨床サービスも企業によって
>開始されています。
とのことです。

分子標的薬に期待します。
個の医療です。

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