経済成長に頼る財政再建はギャンブル
経済成長に頼る財政再建はギャンブル
成長が金利を常に上回るとは限らない
2010年9月30日 日経ビジネスONLINE
「子供たちにツケをまわさないために、
いまの僕たちにできること」
Auther 小黒 一正(おぐろ・かずまさ)
一橋大学経済研究所世代間問題研究
機構准教授。
詳細は、リンクを参照して下さい。
長文ですが、重要なので一読を!
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急激な人口減少や少子高齢化が進展する
中、日本の財政は先進国の中で最悪の状態
にある。
公的債務残高は、対GDP比で約190%に
及ぶ。
また、公的債務の過剰な累積は、民間
企業が生産に利用する資本を抑制し、経済
成長を低下させるメカニズムがあるとの
指摘もある(「ロゴフ仮説」)。
このため、財政・社会保障の持続可能性
や将来の成長に対する懸念が広まりつつ
ある。
だが、「公債発行よって経済が成長して、
公的債務残高(対GDP)が縮小すれば問題
ない」という議論もある。
もし、この議論が成り立つならば、
どんどん公債を発行しても、経済が成長し、
公的債務残高(対GDP)が縮小するの
だから、「夢のようなバラ色の世界」が
訪れる。
けれども、このようなバラ色の世界が
本当に訪れるのだろうか?
このようなバラ色の議論の可能性を追求
することはかまわないが、論理やデータの
検証が不十分なまま議論を展開する「空気
(ムード)」に、筆者は「戦後民主主義」
に対して深い絶望を感じる。
この問いに対する答えを知るには、成長と
公債の関係を明らかにする以下の数式の
理解が重要なカギを握る。
公債残高(対GDP)の変化
=-基礎的財政収支(対GDP)
+(金利-成長率)×公的債務残高(対GDP)
……★
この★式は「多くの経済学者が愛する
数式」であり、「基礎的財政収支が赤字
でも、成長率が金利を上回れば、財政が
破綻するとは限らない」という主張に利用
されている。
なぜなら、右辺第1項の「-基礎的財政
収支(対GDP)」がプラス、つまり基礎的
財政収支が赤字でも、成長率が金利を
上回り、第2項の「(金利-成長率)
×公的債務残高(対GDP)」がそれを相殺
できれば、左辺の「公的債務残高(対GDP)
の変化」はゼロとなり、政府の債務は発散
(拡大)していかないからである。
つまり、基礎的財政収支が一定の場合
には、第2項の「金利と成長率の差」の経路
が重要で、成長率と金利のどちらが高いのか
という点がカギを握る。
だが、図表1の日本の金利と成長率の推移
から確認できるように、現実のシナリオ
では、成長率が金利を上回るケースも
あれば、下回るケースもある。
つまり、成長率と金利はおおむね似た
動きをするが、その動きには「不確実性」
があり、成長率が金利を下回るリスクが
常に存在している。
通常の民間企業と異なり、一国全体
では、成長率が金利を常に上回る状況を
つくり出すのは、きわめて難しいのだ。
すべての国で「グロス金利÷グロス
成長率」の値が1を上回る可能性があり、
「成長率が金利を下回るリスクが存在
する」ことが分かる。
このように、成長率が金利を下回る
リスクが存在すると、基礎的財政収支が
赤字でも、成長率が金利を上回れば、
財政が破綻するとは限らないという主張は
危うい「賭け Gamble」になってくる。
将来ずっと成長率が金利を上回り
続ければ問題ない。
だが、仮に経済成長の「楽観的な
見通し」を基に財政再建を先送りした
場合、成長率が金利を下回る回数が多く
なると、財政が破綻の危機に直面し、
そのツケが将来世代や若い世代に押し付け
られる可能性があるからである。
なお、経済学では、このような賭けを
「ポンジーゲーム」(Ponzi game)と呼ぶ。
成長率が金利を上回るケースならば、
「ねずみ講」のように無限に公債を借り
換えでき、税金で償還する必要がなく
なる。だが、ハーバード大学のマンキュウ
教授らの実証分析は、不確実性を持つ経済
で、「動学的効率性」と呼ばれる条件
(市場の利子率>成長率)が成立している
ときは、ポンジーゲームは不可能である
ことを証明している
(Ball, et al. (1998))。
このことは「誤解」が多いが、平均的に
金利(国債利回り)が成長率を下回るとき
でも成立する。
また、別の経済学者らの実証研究による
と、わが国の経済は動学的効率性を満た
しているとしている
(Abel, et al. (1989))。
また「成長で財政再建が可能か否か」
という論争の核心は、人口減少や少子
高齢化が急速に進み歳出削減も次第に
限界に達しつつある日本において、成長
戦略や規制改革などにより、増税なしに
公的債務残高(対GDP)を縮小させていく
だけの高い成長を達成し続けられるか否か、
ということになる。
公的債務残高(対GDP)の改善に必要な
実質成長率は「3%以上」であることを
示唆する。
このとき、「実質成長率=1人あたり
実質GDP成長率+人口成長率」である。
社会保障・人口問題研究所の人口推計
によると2100年までの人口成長率は
おおむね▲0.7%であるから、1人あたり
実質GDPではおおむね「3.7%以上」の
成長が必要となる。
この収束仮説が正しく、仮に日本の成長
経路がこの直線上にあるとすると、日本の
1人あたり実質GDP成長率は「2%程度」が
妥当ということになる。
つまり、上述の「3.7%以上」という値
には及ばない。
さらに、図表3で使用したデータから
「1人あたり実質GDP成長率」の
ヒストグラムを作成すると図表4のように
なる。1人あたり実質GDP成長率が3%以上
になる割合は45%で50%に満たない。
4%以上となる割合は28%にすぎない。
以上から、1人あたり実質GDPがおおむね
「3.7%以上」の成長を続けると想定する
のは、かなり難しいだろう。
つまり、増税なしの財政再建はかなり
ハードルが高い。
より慎重な成長率を前提に、財政再建の
シナリオを検討していく必要がある。
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明快に見えます。
1.まず、成長率が金利を上回ることを保障
できるかどうかについては、
>、経済学では、このような賭けを
>「ポンジーゲーム」(Ponzi game)
>と呼ぶ。
>成長率が金利を上回るケースならば、
>「ねずみ講」のように無限に公債を借り
>換えでき、税金で償還する必要がなく
>なる。だが、ハーバード大学のマンキュウ
>教授らの実証分析は、不確実性を持つ経済
>で、「動学的効率性」と呼ばれる条件
>(市場の利子率>成長率)が成立している
>ときは、ポンジーゲームは不可能である
>ことを証明している
>別の経済学者らの実証研究による
>と、わが国の経済は動学的効率性を満た
>しているとしている
そうですよ。
つまり、日本経済ではポンジーゲームは
不可能である=成長率が金利を上回ること
は保障できない。と、
2.次に、、成長戦略や規制改革などにより、
増税なしに公的債務残高(対GDP)を
縮小させていくだけの高い成長を達成し
続けられるか否かについては、
>1人あたり実質GDPがおおむね
>「3.7%以上」の成長を続けると想定する
>のは、かなり難しいだろう。
>つまり、増税なしの財政再建はかなり
>ハードルが高い。
>より慎重な成長率を前提に、財政再建の
>シナリオを検討していく必要がある。
と言っています。
現状を考えると上記の推定は妥当だと
思います。
私も、より慎重な成長率を前提に、
財政再建のシナリオを検討していく必要が
あると思います。
いつも政府はあまりに楽観的な成長率を
前提においている。
要するに子供たちにツケを回し続けて
いるということを国民は知っておかないと
いけないと思う、
優秀な経済学者はいるはずだし、
その理論の検証も論理的にできるはず。
それなのに何故、正し財政再建策が
とれないのだろう?
これだけの借金を抱えているのに
まだ、国債を発行し続けて問題ない
という根拠を教えて欲しい。
関連リンクです。
「政府の借金は内国債だから問題ない」
は本当か?
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