「領土問題ない」の再考を
「領土問題ない」の再考を
京都産業大世界問題研究所長
元外務相条約局長 東郷 和彦
2010/09/30 朝日新聞 「私の視点」より
傾聴に値する記事がありましたので
紹介しておきたい。
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中国の真意は必ずしも明らかではない。
しかし、2008年12月に尖閣諸島周辺の
日本領海内を中国の海洋調査船が航行した
際、中国海洋当局は「領有権に争いがある
場合には『実行支配』の実績が重要。
有効な管轄を実現する」と公式に述べた。
日本の防衛に万一、遺漏があるならば、
これを是正する。
その次に、日本外交の基本姿勢を
変えねばならない。
領土に関する立場を堅持しつつ、
あらゆる外向的手段を尽くして武力衝突を
回避するための施策をとらねばならない。
これこそ、外交が失敗したら戦争になる
環境におかれていた戦前の外交官が、身命
をかけて努力した課題に他ならない。
そのためには、責任ある政治家には
「勇ましい発言」を控え、関係者には四つ
の課題に全力を尽くしていただきたい。
第1に、「実効支配に物理的に穴をあける
政策は、武力衝突という最悪の結果を招き
得る」ということを、あらゆる言葉と
チャンネルを駆使して中国側に理解させる
ことだ。
第2に、日本政府はいま、尖閣諸島を
めぐって「領土問題は存在しない」と言い
続けている。
これは冷戦末期、ソ連のグロムイコ外相
が北方領土問題で日本に対し言い続け、
私を含む当時の人が皆、激しい屈辱感と
怒りを感じた表現である。
日本の政策の実質は、中国を刺激しない
ために日本人を尖閣諸島に入れないという、
驚くべき柔軟姿勢である。
だが、「領土問題は存在しない」という
立場のため、知日派中国人の理解すら得られ
なくなっている。
平時なら別だが、武力衝突を視野に入れた
ぎりぎりの外交をするときに
「グロムイコの屈辱」を中国に味わわせる
ことはやめねばならない。
前提条件なしに、双方が言いたいことは
率直に言い合う外交努力こそ、いま求め
られている。
第3に、尖閣諸島が日米安保条約第五条の
対日防衛義務の下にあることは疑いがない。
しかし、わが国ができるだけの外交努力
を払わずに、米国人の血を流してほしいと
要請することもまた、ありえない。
最後に、幸いなことに国際世論は日本の
味方である。
あらゆる機会に、日本の冷静さと条理を
尽くした態度を説明していただきたい。
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>平時なら別だが、武力衝突を視野に入れた
>ぎりぎりの外交をするときに
>「グロムイコの屈辱」を中国に味わわせる
>ことはやめねばならない。
>前提条件なしに、双方が言いたいことは
>率直に言い合う外交努力こそ、いま求め
>られている。
おっしゃる通りだと思います。
勉強させて頂きました。
ありがとうございます。
「領土問題は存在しない」という発言を
はじめて聞いたとき、確かにそうだと
そう思いました。
でも、そう言ったところで、中国は
国際社会に向かってどうどうと
中国のものだと宣言しました。
これでどうして
「領土問題は存在しない」と言える
のか、そう言い続けることで解決するの
だろうか?
「国内法に従って粛々と進める」と
いう発言も、
武力衝突を視野に入れたぎりぎりの外交
をするときにする発言だろうかと
改めて考えさせられました。
外交は難しい。
面子など二の次、日本にとって最善の策
とは、どういうものなのか、
熟考が必要です。
>日本の政策の実質は、中国を刺激しない
>ために日本人を尖閣諸島に入れない
>という、驚くべき柔軟姿勢である。
このことは、外交として考えた時は
十分評価に値する政策ではないで
しょうか?
外交のなんたるかを、今の政治家は本当に
理解しているのだろうか?
いろいろな発言を聞いているとそうは思え
なくなってきます。
勇ましいことをいうのは簡単です。
でも、そのことで中国との間にある問題を
解決できると本当に思っているので
しょうか? 感情論ではいけません。
こんな対応しかできない政治家の政治主導
ではとんでもない結果を招きそうで心配に
なります。
国民も学ばなければいけませんね。
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