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2010年8月29日 (日)

米国での医療成長戦略

米国での医療成長戦略
2010年8月20日
MRIC by 医療ガバナンス学会

詳細は、リンクを参照して下さい。

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 ベイラー研究所フォートワースキャンパス
: ディレクター
 東京大学医科学研究所・先端医療社会
コミュニケーションシステム社会連携部門
: 客員研究員 松本慎一


 現在、我々は今までに人類が経験をした
ことがない情報化社会に直面している。

 このように、目まぐるしく情報が行きかう
現代において、変化に対応することが米国
での最大の関心ごとの一つである。

 ベイラーヘルスケアシステムはキリスト
教の精神の元、26の病院と31の外来診療所
と131のクリニックを抱える医療システム
であり、さらに、最先端の医療を導入する
ためにベイラー研究所を有している。

 研究を経済的に支えるために、ベイラー
ヘルスケアシステム基金がダラスに、
オールセインツヘルス基金がフォートワース
にある。

 これらの基金は、地元からの善意の寄付金
を集めており、寄付を行った方や企業の希望
の部門やテーマ、あるいはベイラーの発展の
ために重要な部門に資金を提供している。


【成長戦略における基金(Foundation)の
重要性】

 成長を成し遂げるためには、イノベー
ションが不可欠であることは誰しもが認める
ところであろう。
 イノベーションの結果、今までなかった
新しい価値や仕事そして産業が生まれ、発展
する。

 イノベーションを実現するためには研究
が不可欠であり、研究には費用がかかる
のだが、うまく利潤につながるイノベー
ションが生まれると投資した研究費は
'生き金'となり、何倍にもなって戻ってくる。

 ただし、すべての研究がこのようにうまく
イノベーションを生み出すとは限らないし、
むしろ、何倍にもなって跳ね返るイノベー
ションはまれである。

 このため、研究費の多くは、支出として
無駄となる可能性をはらむ。
 医療機関が成長するためのイノベーション
には研究と研究費が必要なのだが、この
ような金銭的なリスクがあるため、病院自身
が研究機関をもつことは難しい。

 ベイラーヘルスケアシステムが研究機関
を持つことができるのは、資金提供を担当
する基金があるからである。
 この基金の仕事は、前述のように、地元
の企業や一般の市民から寄付金を集め、その
お金を有効活用し、寄付いただいた企業や
一般市民に寄付したことを満足していただく
ことにある。
 ここで重要なのは、寄付をした側が、
「社会的に貢献した。よいことをした。」
と実感し、満足することである。

 このため、基金は、毎年地元で最大の
ホテルを使って、寄付に対する感謝の
パーティーを開き、貢献して頂いた方々を
表彰する。
 また、基金のプレジデントは、寄付の尊さ
を機関紙を通じてやパーティー時に真摯に
感謝する。

 そして、ナイチンゲールの言葉、
「ヒトの幸せは、物質的な豊かさで得られる
のではなく、いかに自分が人類に貢献できた
かで得られる。」を引用する。


【ベイラー研究所の成長戦略】

 ベイラーヘルスケアシステムは、巨大な
医療システムであるが、前述のように独立
した研究機関はダラスの免疫学研究所と
フォートワースの膵島移植研究所の 2箇所
だけである。
これは、「ベイラー研究所での研究は患者
さんの利益に直結した研究であるべき」と
いう研究所のプレジデントのDr. Mike Ramsey
の信念による。
 研究分野を厳選するが、選んだ研究分野
は世界のトップにするために手厚くサポート
を行う。
 選ばれた分野のリーダー選びは極めて重要
と考えられており、米国内からだけではなく
世界中からリーダーとなる人物を探す。
 ヒト免疫学のリーダーであるDr. Jacques
Banchereauはフランスから呼ばれ、膵島移植
の研究所は私が日本から呼ばれた。
 選ばれたリーダーは世界でトップの研究
実績のみならず、その成果が直接患者さん
に還元すること、さらに、ベイラーに利潤
をもたらすことを課せられる。

 世界で最高水準の研究であることと患者
さんに直接還元することは、基金活動に
とって極めて重要である。
 これは、一般の市民が、ベイラーに寄付
をしようと思う原動力になるのが、ほかの
病院では治らなかった病気が治ったという
喜び、あるいはベイラーなら治してくれる
であろうという期待であり、世界最高水準
の研究が地元で行われているという誇りで
あるからだ。
 Dr. Ramseyの「患者さんに直接還元できる
世界最高の研究のみをサポートする」という
考えが、基金活動にも生かされる。
 つまり、患者さんに還元できる最高の研究
をベイラーが実施しているという事実が宣伝
効果を生み出し、基金がこの宣伝効果を
うまく活用することで更なる寄付を獲得する
という、好循環を生み出している。

 この戦略での最初の鍵が、どの分野の研究
が患者さんに直結するかの見極めである。

 ベイラーでは20世紀の奇跡と言われている
移植医療を選択した。
 これは、移植医療が従来の不治の病を治す
ことを実感したからである。
 移植医療を発展させるべく、当時、移植
での最大の問題点であった拒絶反応を解決
すべく免疫学研究所が設立された。
 現在、ベイラーは肝臓移植の分野で米国
をリードする医療機関の一つとなり、
スエーデンからリクルートされた移植部門
のトップである Dr. Klintmalmはアメリカ
移植外科学会の会長を務めている。
 また、経済面での貢献としても、移植部門
はベイラーヘルスケアシステムの中でも稼ぎ
頭となっている。
 Dr. Banchereauがリードするヒト免疫学
でもベイラーは世界をリードする位置にあり、
免疫研究所からのイノベーションとして
今まで不治といわれていた悪性黒色腫の
免疫治療に成功したり、外部から巨額の
研究費用獲得にも成功している。
 イノベーションが極めてうまくいった
事例だ。

 2000年に膵島移植という細胞移植により
1型糖尿病患者がインスリン治療さえ不要に
なったという臨床の成功例を知り、ベイラー
は次の課題を膵島移植に決定した。

 選択の際の最も重要なポイントは、
「すでに患者さんを不治の病から救った臨床
実績」である。

 ライフサイエンスの世界では、多くの基礎
研究が実施されているが、それが本当に臨床
に役に立つことは極めてまれである。
 このため、医学の基礎研究を利潤につな
がるイノベーションへ発展させることは
ほぼ不可能である。
 つまり、ライフサイエンス分野で、実際に
成長をしたければ、「臨床成功例からテーマ
を探す」ことが一番の近道である。

 ここで、一番難しいのは、患者さんに直接
還元できる、世界最先端の研究をリードする
人物の発掘である。
 この作業が重要であり、難しいことを理解
しているため、ベイラーでは人材を世界中
から探すのである。


【膵島移植研究所の戦略】

 生体ドナー膵島移植の成功例が評価され、
私は2007年に、ベイラーの膵島移植をリード
するためにリクルートされた。
 膵島移植のプロジェクトに私が課せられた
課題は、世界最高レベルの研究をすることは
もちろん、3年でこのプロジェクトを経済的
にも自立させることであった。

 膵島移植は、糖尿病を完治させる治療では
なく、インスリン分泌能力を補う、細胞補充
治療である。
 膵島移植により、血糖値が劇的に安定化し、
インスリン注射も不要となるが、病気から
開放されるわけではない。
 このため、膵島移植は患者さんの生活の質
(Quality of Life; QOL)を向上させる治療
として位置づけることができる。

 ここで、大切なのは患者さんのQOLが改善
したどうかは、医療者が判断すべきではなく、
患者さん本人が実感することなのだ。
 つまり、患者さんがよかったと実感し満足
することこそ膵島移植の目標なのである。

 この目標を達成するために、1型糖尿病の
患者会の協力のもと患者さんの意識調査や
最先端医療に望むことは何かを調査した。
 我々は、患者さんは血糖値が安定化して
合併症を防ぐことが重要と考えていたの
だが、患者さんの希望はさらに先を行き、
血糖値の安定化とともにインスリン注射
から開放されることを実は望んでいた。

 そこで、ベイラーでは、膵島移植の目標は、
血糖値の安定化からさらに発展させ、
インスリン注射からの開放としている。


【ライフサイエンス分野での成長戦略】

 私が米国で学んだことは、ライフ
サイエンスでの成長戦略において、「臨床
での成功がスタート」であるということで
ある。
 将来的に臨床応用が期待されるであろう
基礎研究は、臨床応用に成功するまでは
成長戦略に入れるべきではなく、巨額の
投資には不向きである。
 逆に、すでに臨床応用で成功してる分野
は、さらに、利潤を生むためにはどうする
かを、行政や政治家など様々な人々の協力を
獲て多角的に検討することで、最大限に利潤
を創造できる可能性が高い。
 このための、巨額投資は'生き金'として、
数年以内に何倍もに膨れて戻ってくるで
あろう。

 もう一つ大切なことは、医療の原点は患者
さんであり、患者さんとの真摯な対話が
新しいイノベーションに不可欠ということ
である。

 血糖値を安定化させ合併症を防ぐことが
大切と考えていた膵島移植はもはや患者さん
のニーズに合わず、インスリン注射からの
開放が膵島移植の効果として患者さんから
期待されている。
 情報が激しく行きかう現代では、患者さん
の意識や希望は日々変わり、この変化に対応
できない医療は成長戦略としては不合格
である。

 多くの患者さんとの真摯な対話と、対話
から得られた膨大な情報に対する分析が
今後ライフサイエンスでの成長戦略でも
重要となるであろう。


【最後に】

 成長戦略は、今最も重要な挑戦であり、
イノベーションによる活気あふれる未来
がゴールである。

 「人生でもっとも輝かしい時は、いわゆる
栄光の時でなく、落胆や絶望の中で人生への
挑戦と未来への完遂の展望がわき上がるのを
感じたときだ。」

  これは、私が好きなナイチンゲールの
言葉の一つである。
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「米国での医療成長戦略」という題に
なっていますが、
「米国での医療成長戦略の一例」と言った
方が正確ですね。

参考になります。

企業を含めた一般からの寄付により研究を
推進するにはどうあるべきかの一つの解を
見ることができると思います。

日本でも、こういう形の運営が出来ない
ものでしょうか?

研究資金不足ですよね。

なんとかしたいものですね。

寄付という文化がない。
などと出来ない理屈を並べるのではなく、

こういう公の利益になるであろう寄付に
ついては無税にするとかのインセンティブ
を与える施策をとってみてはどうでしょう。

自分の寄付したお金がそのまま世のために
生かされる。となれば、もっと寄付も増えて
くるのではないでしょうか?

税金として吸い取られたお金は、何に使わ
れるのか、わかったものではないのですから、
'生き金'ではなく'無駄金'になるかもしれない。
と思えば寄付することも躊躇する。

お金をどうやって生かすか、どうすれば
'生き金'と出来るか?
考えてみてください。

その意味で上記した記事は参考になり
ますね。

関連リンク
ランゲルハンス島:
別名を膵島(すいとう)という

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