アフガニスタンが唱える「明るい展望」に違和感を覚えるワケ
アフガニスタンが唱える「明るい展望」に
違和感を覚えるワケ
1兆ドル相当の鉱物資源は、「本当の富」
をもたらすのか
2010年6月25日 日経ビジネスONLINE
詳細は、リンクを参照して下さい。
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6月13日、米ニューヨーク・タイムズ
(電子版)が伝えたところによると、アフガ
ニスタンに現在の市場価値にして1兆ドル
相当の豊富な未開発鉱物資源が発見された
という。
米国防総省(ペンタゴン)と米地質調査所
(USGS)の調査で分かったことで、発見
された鉱物資源としては鉄鉱石、銅、
コバルト、金、それに、今脚光を浴びている
電気自動車やハイブリット車のリチウム
イオン電池を作るのに必要なリチウムという
ことだ。
ペンタゴンの内部資料によると、アフガ
ニスタンはこのたびのリチウムの発見で
「“リチウムのサウジアラビア”になれる」
と述べてあるそうだ。
そして、説明を受けたハミド・カルザイ
大統領も大喜び、早速ペンタゴンが支援して
来年の秋までに採掘権益の国際入札を行う
という。
米政府高官も、「これで近代産業に欠かせ
ない数々の鉱物資源を保有するアフガニス
タンは世界の最も重要な資源センターの1つ
に変身することができそうだ」と語った。
筆者はニューヨーク・タイムズの記事や
そのほかの報道に強い違和感を持つと同時に、
また“資源は呪い(resource curse)”の罠
にかかる国が1つ現れたと思った次第である。
まず、なぜ違和感を持ったかと言うと、
当コラム「アフガンで米国は戦争、中国は
銅鉱山を取得」(2009年12月17日)を読ん
でいただければお分かりになってもらえると
思う。
アフガニスタンでは、既に資源争奪戦が
行われており、2008年には、880億ドルの
価値があると言われる世界最大級の
アイナック(Aynak)銅鉱床の国際入札で、
米国・ロシア・豪州・カナダ・インドと
争って中国が採掘権益を鉄道・発電所など
インフラ付きの35億ドルで落札している。
中国がもう先取点を取っているのである。
アフガニスタンの歴史上、最大の外国
企業の直接投資ということだ。
従って、このほど鉱物資源が発見され、
権益の国際入札を来秋に初めて実施すること
になるというような発表はおかしいのである。
大規模鉄鉱石鉱床についても、既に入札
実施中ということである。
そして、2009年11月19日には、中国の国有
企業である中国冶金集団公司(China Metal
lurgical group=MMC)がアイナック銅鉱山の
採掘権益を取得した際に、当時のアフガニス
タン鉱山大臣ムハンマド・イブラヒム・
アデル氏にドバイで3000万ドルの賄賂を
渡したということをワシントン・ポストが
報じている。
その賄賂の効果があってか、中国は
カブールの西方にある大規模鉄鉱石鉱床の
開発案件の入札についても今フロントランナ
ーであるという噂が飛んでいるのである。
なにしろ「腐敗にまみれている」と言わ
れるカルザイ政権である。
世界の腐敗防止のために活動している、
国際NGO(非政府組織)の「透明性インター
ナショナル(Transparency International)
」による、世界180カ国政府の腐敗度ラン
キングで、アフガニスタンはソマリアに次ぐ
堂々の第2位である。
ちなみに第3位はミャンマー、日本は163位
になっている。
要は、今回の豊富な鉱物資源発見の報道
はあまりに唐突であるばかりでなく、政治的
意図を感じるのである。
アフガンに資源があることはずっと以前
から分かっていた。
そして、なぜいまさらペンタゴンの発表
か。それは、アフガンで米軍はじめ多国籍
軍の兵隊たちが反政府勢力タリバンやアル
カイーダと命をかけて戦っているところで、
中国に資源を横取りさせるとは何事かという
米国の怒りの結果であろう。
それにしても、タリバンの勢力は衰えず、
アルカイーダがいまだに跋扈し、世界第2位
の腐敗度と言われるアフガニスタンへ、
命をかけて進出する日本人が果たしている
のか。
今も、邦人ジャーナリストが行方不明で
ある。かつて「人の命は地球より重い」と
発言した首相がいたが、「1000万人死んでも
たいしたことはない」と言った国家元首が
いた国と対抗できるのか。
さて問題は、たとえその資源が実際に採掘
されることになるとしても、アフリカ、
アジアそして南米の多くの資源産出国が経験
しているように、まんまと“資源は呪い”の
餌食になる恐れがあるからだ。
単純に「展望は明るい」と言えないのが、
この世界である。
「貧しい国は、貧しい人々が宝くじに
当たることを夢見ると同じように石油が
発見されることを夢見る。
しかし、その夢はしばしば悪夢に変わる。
それは、彼らが見つけた宝物の新規輸出
国として得るもの以上の災いをもたらす
と言うことを悟ることになるからだ」
すなわち資源の輸出によるハード・カレン
シーの流入が物価を押し上げ、非オイル
ビジネスの競争力を損ない資本不足に陥る。
結果として、製造業の生産性向上の芽を
摘んでしまい、失業者が増加、若者の教育
レベルが低下し、セーフティネットのため
の社会保障費が大幅に増えることになる。
そして、資源を担当する政府関係当局者
たちは利権漁りのために、民主的な手続き
を避け、汚職が蔓延する。
そして資源利潤を無駄に遣ってしまい、
ブームが去ってみると国の債務は資源発見前
より増えている始末。
これが“資源は呪い”だ。
果たして、米国の思惑通りに公正な国際
入札と適正な開発が行われ、腐敗、紛争も
なく、“オランダ病”にも罹らず、豊かな
アフガニスタンの建国ができるだろうか。
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なにやら恐ろしい話です。
努力無しで富を得ることになる国の行く末
というものは、単純にハッピーということ
にならないのが歴史の示しているところ。
ということでしょうか?
宝くじに当たった人が必ずしも幸福になって
いないということと似ている?
それにしても、中国はしたたかですね。
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