「逆転×逆転」で、夢のエンジンが動く
「逆転×逆転」で、夢のエンジンが動く
マツダ「SISS(スマート・アイドリング
・ストップ・システム)」(その1)
2009年7月29日(水) 日経ビジネスONLINE
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燃焼だけでエンジンをかける――。それは、120年以上の
歴史を持つガソリンエンジンの開発を手がける技術者
たちにとって、決してかなうことのない夢だった。
燃焼だけでは、ピストンの初動に必要なパワーは得られない。
だから、燃焼だけでエンジンをかけるのは不可能だった。
「乗れば分かります。マジックなんですよ。
スターターモーターなしでエンジンがかかるっていうのは。
何せ無音でクルマが動き出すのですから」
マツダのプログラム開発推進本部主査、猿渡健一郎は
目を輝かせる。
不可能を可能にした技術。それは、SISS
(スマート・アイドリング・ストップ・システム)と名づけられた。
これにより、マツダは2006年、第16回日経BP技術賞の
機械システム部門賞を受賞した。
それから3年後。マツダは、新型「アクセラ」で、
初めてアイドリングストップ機構を搭載したモデルを
市場に投入した。
アイドリングストップは、停車時の燃費を削ることができる。
このため「環境対応車普及促進税制(エコカー減税)」
及び「環境対応車普及促進対策費補助金(エコカー補助金)」
の対象となった。
6月に発売してから約1カ月で累計受注台数は7640台。
月間販売目標2000台の3.8倍となる好調ぶりだ。
このうち、アイドリングストップ機構搭載モデルが
半分を占めるが、これも「当初の見込みを上回っている」
(マツダ)という。
ただ・・・。アイドリングストップ機構の名前は
「i-stop(アイ・ストップ)」。
調べてみると、燃焼だけでなく、「モーターアシスト」
との組み合わせでエンジンを再始動させている。
モーターアシストは、スターターモーターのような役割だ。
やはり、燃焼だけでエンジンを再始動させるのは
無理だったのか。
猿渡に水を向けてみたところ、こんな答えが返ってきた。
「結果的には燃焼だけでエンジンをかけられなかったん
ですねって、みなさんからよく言われるんですけれど。
実際には、欧州で試作車を動かした時も、
SISSのエンジンは全く問題ありませんでした」
せっかく技術者たちの永年の夢だった「燃焼による再始動」
の技術が実現しながら、なぜアクセラでは採用していないのか。
ここには、技術者の夢と消費者の満足という狭間で
決断を迫られた技術者の姿があった。
・・・・
逆転の発想で不可能を克服
少し時計の針を巻き戻そう。
そもそも燃料だけでエンジンを動かそうと考えた
ことがないから、開発の基礎となるデータがない。
そこから作業は始まった。
燃料はちゃんと燃えたし、エンジンは動き始める。
だが、いつもおよそ半回転で止まってしまった。
どうしても「上死点」を越えられなかった。
「逆回転にしてみてはどうだ」
別のシリンダーを燃焼させた動力で、いったん
エンジンを逆回転させる。
これで目的のシリンダー内にあるピストンを持ち
上げて空気を圧縮して点火する
――これが山本のアイデアだった。
ピストンがシリンダー内のある特定の位置にあれば、
逆回転による燃焼のみでエンジンを回せそうだ。
この環境を整えて実際に試してみると、
見事にピストンは上死点を越えて、エンジンが再始動した。
あえてエンジンを逆回転させる視点。
この「逆転」の発想が、最初のブレークスルーだった。
次の逆転は、「エンジンを止める技術」
喜ぶ田賀たちだったが、すぐに全く別の困難にぶち当たった。
ピストンが特定の位置にあればエンジンが動く
ということは、逆に言うと、ピストンが特定の位置に
なければエンジンがかからないということになる。
ピストンが特定の位置に来るように、思い通りに
エンジンを止めることができるのか。
「そんな研究は、これまでありませんでした」と田賀は
苦笑する。
それはそうだろう。
普通は、エンジンをどう動かすかが研究目標なのだから。
空気圧の調整とオルタネーターの併用で、
「エンジンを止める技術」を実現した。これが第2の
「逆転」だ。
そして、2005年10月の東京モーターショー。
満を持して、マツダは2つの「逆転」で実現した
“夢のエンジン”SISSを出展。業界の話題をさらった。
この時、研究成果の例として、スターターモーターを
使った再始動では0.7秒かかるところが0.3秒に短縮できる、
法令により計測上の条件が定められた基準に基づく
「10・15モード燃費」では2.0リットルのオートマチック車
との比較で14%ほど改善できるといったデータを
発表している。
ところが、アクセラのi-stopには、2つの「逆転」
の発想はない。
代わりにモーターアシストが採用され、「燃焼のみ」
ではなく「燃焼メーン」の再始動になった。
いったい何があったのか。
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ハイブリッド全盛の中にあって、よくやったと応援したい。
素晴らしい技術だと思います。
分野が違うとは言え、同じ技術者とて、
>いったい何があったのか?
興味があります。
つづきに期待したい。
どうして、SISSではなく、i-stopにせざるを
得なかったのか。
残念ですね。
ついにエンジンが動いた時、どんなに嬉しかったか?
それでも、最初の製品にその技術がのらなかったこと、
開発に携わった人の無念さが思われます。
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