iPS細胞の登場がES細胞研究に及ぼした影響
iPS細胞の登場がES細胞研究に及ぼした影響
掲載日 : 2009年7月28日 iPSトレンド
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ES細胞の研究は世界中で継続して行われており、
山中教授も新たにES細胞を用いた研究を開始する
と発表しています。
今回はiPS細胞の登場がES細胞研究に与えた
影響について見ていきましょう。
iPS細胞を樹立した後、山中教授はES細胞の研究と
iPS細胞の研究は両立して進めるべきだという主張を
しています。
理由としては、iPS細胞の安全性が確認できるまで
には少なくとも数年の時間が必要だからです。
その間ES細胞の研究がストップしてしまうと、
もしiPS細胞の安全性に重大な問題があることが判明
した場合にはES細胞の研究を再開することとなり、
結果的に再生医療の実現が遅れてしまうことに
繋がる可能性があるのです。
また、学術研究という観点からは、既に知見が
積み上げられているES細胞と、研究が始まってからの
期間が短いiPS細胞で観察された現象を比較することで、
得られたデータの信頼性が増すということもあります。
このような点は研究者の間では正しく認識されており、
冒頭のようにES細胞の樹立研究が世界中で継続されて
います。
PubMed(世界最大の生命化学系論文のデータベース)
によれば、iPS細胞(induced pluripotent stem cell)、
ES細胞(embryonic stem cell)をキーワードとして含む
論文数は、マウスでのiPS細胞が樹立された2006年8月、
ヒトでのiPS細胞が樹立された2007年11月以降も
増え続けていることが分かり(図1)、
ES細胞研究は継続して行われているのです。
以上のことからES細胞についての研究の重要性を
認識して頂けたかと思いますが、実は日本国内で
ES細胞の研究を行うことは非常に困難です。
山中教授のグループがES細胞の研究も開始すると
発表したのは、つい5ヶ月前の2009年3月です。
ES細胞に付きまとう倫理的な問題に対し、
日本政府は研究を行う施設で設置した倫理委員会の
審査と、国での審査という2重審査を義務化して
きました。
これに対して山中教授や冒頭の中辻教授を含む
多くの幹細胞研究者が「日本でも研究を迅速に行える
体制が必要」と訴え続けてきました。
山中教授に取材をしたTime誌の記者Leo Lewisが
ブログで公開した山中教授のコメントによれば、
「日本でヒト幹細胞についての1つの実験を行う
ためには、500ページにわたる書類を提出する
必要があり、書類作成に1ヶ月、審査に更に
1ヶ月かかるので、イギリスのライバル研究室では
その間に10の実験が出来てしまう
(英語を和訳、一部意訳)」と述べています。
日本はマウスのES細胞については世界
トップクラスの研究成果を挙げているにも拘らず、
ヒトES細胞についての研究はなかなか進まない
状況が続いていました。
そこで、2009年3月17日に行われた文部科学省の
専門委員会で、ヒトES細胞の作成、使用、分配に
関する指針を改正し、これまでの2重審査を
研究実施機関での審査及び国への届出のみ
とすることや、研究機関が外部の倫理委員会に
審査を委ねることを認めるなど、ヒトES細胞
使用時手続きを簡略化する方針を決めました。
これによって日本国内でもヒトES細胞研究が
より活性化すると考えられます。
また、ES細胞の樹立に際して、倫理上の問題を
克服する技術的発展も起こっています。
Advanced Cell Technology社(ACT)のRobert Lanza
らのグループは、胚の発生能を損なうことなく、
ES細胞を樹立する技術をマウスとヒトの両方で開発
しました。
同研究グループは2008年に入り、受精卵の発生能を
損なうことなくES細胞を樹立することに成功した
と発表しています。
これらのように、倫理的問題を回避しつつ、
新たにヒトES細胞を樹立する方法が確立されつつ
あります。
このように、再生医療の実現に向け、ES細胞と
iPS細胞の研究がお互いを刺激しつつ、補完しつつ
進んでいく体制が整いつつあります。
今後も、研究の同行に注目が集まりそうです。
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こういうことも、知っておかないといけませんね。
ES細胞とiPS細胞の研究は、両立して継続すべきなの
でしょう。
日本国内の研究環境も少しずつ変わって
来ているようですので見守りましょう。
もう少し、先端を切って研究が進むように、
政府も、もっと積極的になって欲しいものです。
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