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2007年5月 1日 (火)

電子政府は中小企業の入札を拒むのか

電子政府は中小企業の入札を拒むのか
2007年4月26日 木曜日 奥井 規晶


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奥井 規晶(おくい・のりあき)

1984年、早稲田大学理工学部大学院修士課程終了後、
日本IBMに入社。システムエンジニアとして活躍後、
ボストン・コンサルティング・グループを経て、
アーサー・D・リトル(ジャパン)ディレクター、
シークエンシャル代表取締役、ベリングポイント代表取締役
などを歴任。2004年4月に独立。
現在、インターフュージョンコンサルティング会長。
早稲田大学大学院客員教授を経て、事業戦略、営業戦略、
組織改革などのコンサルティング、
ラジオのコメンテーター、 講演、執筆などで幅広く活躍。
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奥井 規晶氏の記事を転載します。

なんともなさけないと思います。

>電子政府システムは今後誰も使わない巨大な負の遺産と
>なってしまうのではないだろうか。
>いや、もうそうなっているのかもしれない。


そうだと思います。
ユーザ不在のシステムとなってしまうのでは?



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 アクセンチュアが発表した2005年度の電子政府進捗度
ランキングで、日本が前年の11位から5位に上昇した。
 政府のe-Japan戦略推進に協力させてもらっている
私にとって、これは大きな喜びであった。
 ちなみに上位は、カナダ、米国、デンマーク、シンガポール。
 日本はオーストラリア、フランスと並んで5位に
ランクされた。

 政府の発表では官公庁の手続きの9割方が電子化された
とのことなので、私も早速、一番身近な確定申告の
「e-Tax」を試してみた。
 だが、その散々な結果は前回のコラムでご報告した通りだ。
 e-Taxは特定のICカードリーダーの購入や、
住民基本台帳の電子署名、申告前の暗証番号変更など様々な
「めんどう」があり、とても一般国民が利用できるレベルでは
ないのが実態だった。

 
 さて今回は、政府の電子入札システムへの申請に、会社として
チャレンジしてみたので、その体験をご報告しよう。



・30ページの説明書に頭が痛くなる

 結論から言えば、一般の中小企業ではとても手が出せないよう
な手間と知識が必要だということが分かった。
 これでは「電子政府が中小企業の実質的な参入障壁に
なっている」と思わざるを得なかった。

 申請のきっかけは、内閣府からの公募が発表された
ことだった。
 インターネット上で発表されたこの公募にはホームページに
簡単な内容説明があり、その仕様の詳細はPDFファイルを
ダウンロードして読む必要があった。

 公募仕様の詳細だから当然誰でも読めるものと思って
ダウンロードボタンを押したのだが、
何とダウンロードには内閣府の電子入札・開札システムへの
利用申請をしなければならなかった。
 昨年も同様の公募に応札したのだが、あの時は仕様書の
ダウンロードは簡単にできた。
 今回はなぜ利用申請が必要なのだろう。
 よほど機密の資料なのだろうか。


 後々、ダウンロードした際に分かったのだが、

たった5ページのごく普通の内容だった。
 昨年ダウンロードした資料と比べて、重要な変更があったとは
思えない。

 しかし、ダウンロードする前にはそんなことは分からない。
 仕方なく内閣府電子入札・開札システムの利用申請をすること
となった。

 この電子入札・開札システムを利用するには、4段階の準備が必要だ。
 (1)動作環境の確認、
 (2)「安全な通信を行うための証明書」の取得と
   インストール、
 (3)法務局での「電子証明書」取得とそのインストール、
   そして
 (4)「署名アプレット」のインストールだ。

 これだけの作業をホームページを見ながら行うのは
大変である。
 そこで私は必要な説明が書いてあるサイトのページを
すべて印刷してみた。
 30ページに及ぶ説明書がプリンターから出てきた。
 それだけでも頭が痛くなりそうだったが、とにかく
始めてみた。

 動作環境の確認は簡単である。最近購入したPCであれば、
ほぼ大丈夫だ。
 次の「安全な通信を行うための証明書」とは、
インターネット上で通信を行う際に相手先を確認する
ためのもの。
 証明書はホームページから簡単にダウンロードできる。
 しかし、よほどインターネットとブラウザーの知識がない
限り、この作業の意味は分からないだろうし、
説明書に書いてある指示にもつまづくだろう。

 例えば、証明書を「フィンガープリント(証明書をハッシュ
関数にかけた値)」 で確認せよと言われて、

どれだけの利用者が理解できる だろうか。

 私も説明書に載っている図とブラウザーの実際の画面が
若干違うのに違和感を覚えたが、幸いIT(情報技術)
スキルはあったので、この作業は10分程度で終了した。



・なぜ今、フロッピーディスクなのか

 次は法務局での「電子証明書」取得だ。
 電子証明書は申請資格を確認するものだ。
 電子証明書の取得には、まず専用ソフトウエアを
購入しなければならない。
 また、申請用にフロッピーディスク(FD)も用意
しなければならなかった。

 e-Taxの利用に特定のICカードリーダーが必要だったように、
ここでは特定ソフトとフロッピーディスクドライブ(FDD)
を購入しなければならない。

 ソフトは数万円の高価なものから数千円のものまで
紹介されており、私は一番安価なものを購入した。

 今時のPCにはFDDがついていないのが普通である。
 やむなくUSB接続のFDDとフロッピーディスクを購入した。
 数日たってそのソフトとFDDが届いたので、
早速インストールだ。
 ソフトのインストールは数分で完了。
 その専用ソフトで「秘密鍵」と言われる暗号
(会社の実印のようなものに当たる)を作成し、
申請用のFDに書き込む。この作業も30分ぐらいで済む。
 民間が作った専用ソフトは安価なうえ使い勝手がよく、
法務局への申請書類まで作成してくれるので非常に便利だ。

 電子証明書の取得に必要な書類は、申請書とFD、
会社の印鑑カード、代理人が申請する場合の委任状だ。
 私は経理担当者にこれらと必要な手数料を持たせて
管轄の登記所に行ってもらった。
 申請はスムーズに行われ、彼女は1時間ほどで
「電子証明書発行確認票」を持って帰ってきた。

 専用ソフトを使ってインターネット経由で電子証明書を
取得し、自分のPCにインストールする。
 これは簡単に行えた。
 ここまで手間はかなりかかったが、流れとしてはそれなりに
スムーズにいった。



・署名アプレットが動かない

 いよいよ、利用申請準備の最後、署名アプレットの
インストールだ。
 多くの人は「アプレットって何?」と思うだろう。
 アプレットは申請書類に電子的な署名をする
プログラムである。
 いわば電子的に捺印するためのものだ。

 ここで大問題が起こった。
 アプレットのインストールは簡単に終わったのだが、
私のPCの動作環境がどうしても合わなかったのだ。
 アプレットを動かすためには、動作環境として
「JavaVM(Java仮想マシン)」が必要だ。
 説明書には、JavaVMとしてマイクロソフトの
「MicrosoftVM」か、サン・マイクロシステムズの
「JRE」かが必要だと書いてある。

 私のPCは自動的にサンのJREが更新される設定になっている。
 JREは常に最新バージョンなのだ。
 これなら文句はないだろうと思って、
すぐに「内閣府電子入札・開札システム」の
利用申請画面から説明書通りに利用者管理画面に
行ったのだが、エラーメッセージが返ってくる。
 どうやらセキュリティー設定の問題で、
アプレットが動かないらしい。

 自社の優秀なエンジニアを呼んで調べてもらったのだが
簡単には分からない。
 1時間ほど悩んで、ようやくこのシステムがJREの
最新バージョンでは保証されていないことに気づいた。

 そんな馬鹿な。
 世の中の多くのPCは、自動的に動作環境の更新をしている
はずだ。「新しい環境では動かない」というのは、
ソフト設計としておかしいではないか。


 内閣府のヘルプデスクに電話しようとしたが、
 既にサポート時間を過ぎていたのでメールで質問を出して
翌日確認することにした。
 翌朝、PCを立ち上げると内閣府のヘルプデスクから
返信が来ていた。アプレットをインストールし直せ
との指示だったので、やってみた。
 結果は同じだったので今度は電話で聞いてみた。
それでもらちが明かない。

 次にJREのバージョンを最新版から内閣府が保証する
レベルにまで落としてみた。
 それでも動かない。仕方がないので、特に根拠はない
解決策だが、サンのJREではなくてマイクロソフトの
MicrosoftVMをインストールして、JREから切り替えてみた。
 そしてようやく問題は解決し、
利用者管理システムに入ることができた。

 この後、利用申請をしたのだが、ここでも説明書通りには
いかない。
 正しい電子証明書の設定の仕方が説明書には記載されて
いなかったからだ。
 またまた自社の優秀なエンジニアを呼んで、ブラウザーの
設定をしてもらい、ようやく申請ができた。
既に午前の勤務時間は終わろうとしていた。



・このままでは電子政府は巨大な負の遺産に

 内閣府のヘルプデスクは非常に丁寧に対応してくれた。
 この点は大いに評価に値する。
 しかし、説明書通りにやってみて、さらには優秀なエンジニア
にも手伝ってもらい、それでも利用申請の入り口に
たどり着くのに正味4日ほどかかったのである。
 これはいかがなものか。
 一般の中小企業ではとても不可能な作業だろう。
 また、専用ソフトやFDDの購入が必要なのも、余計なハードルとなる。

 そう思っていたら、取引先の某大手IT企業もこの申請は
やっていないという。
 この企業は政府の電子政府化に深く関わっているのだが、
自社では電子政府を使っていないという。

 その理由を尋ねると、非常に合理的な答えが返ってきた。
 「別に電子申請をしなくとも、日頃から官庁に出入り
しているので何も困らない」という。
 私がダウンロードした資料も「担当事務所に行けばもらえる
のだから、電子申請の手間をかける必要はないだろう」
と言うのだ。

 なるほど、もっともな理由であるが、それならば、
何のための電子政府なのだろう。
日頃、官公庁に出入りする機会のない地方企業や
中小企業の利便性を図ってのことではないのか。
それなのに実際に体験してみたら、とても中小企業では
申請できないような作業なのだ。


 世界第5位の電子政府とは、この程度のものなのか。

 取りあえず機能だけを揃えて仕事をしたつもりになっている
官僚たちの仕業なのか。
 もっと民間の、それも地方や中小企業の立場で
電子政府全体を見直さなければ、電子政府システムは
今後誰も使わない巨大な負の遺産となってしまうのでは
ないだろうか。
 いや、もうそうなっているのかもしれない。

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